結婚したあとに夫婦で住宅(家)を購入する(建てる)という方が多くいらっしゃいます。
住宅の財産分与には、特有の複雑な問題があります。
住宅ローンの有無で場合分けをして、以下でご説明させていただきます。
1 住宅ローンを完済した/ローンを組まずに買った(建てた)住宅(家)
住宅ローンを組んで住宅(家)を買った(建てた)ものをすでに完済した場合、もともとローンを組まずに住宅を買った場合には、住宅の時価額を基準に財産分与を行うこととなります。
時価額3000万円の住宅であれば、2分の1ルールを適用すると、財産分与の額は「3000万円×1/2」=1500万円となります。
そして、夫婦の一方が家を取得する前提であれば、他方に対して1500万円の財産分与をすることとなります。
住宅の時価額は、複数の不動産業者の査定を取得し、中間的な数値を用いる例が多く見られます。
固定資産評価額を用いる例も多いです。
不動産鑑定士による鑑定を利用する方法もありますが、相当額の鑑定報酬が必要となることには注意しなければなりません。
住宅を購入する際の頭金に、独身時代から保有していた預貯金や親から援助を受けた金銭などの特有財産(夫婦の協力関係とは無関係に得られた財産)があてられている場合には、財産分与の計算は以下のように行います。
【事例1】
夫婦で4000万円の家を建てた。
その際、夫の親から1200万円の援助があり、これを頭金とした。
残りの2800万円は住宅ローンを組んで夫婦で完済した。
家の時価は、現在、3000万円である。
手順①
住宅の価値の下落率を計算します。
【事例1】では、4000万円で建てた家の現在価値(時価)が3000万円となっているため、下落率は3/4です。
手順②
手順①の下落率から、頭金(特有財産)の現在価値を計算します。
【事例①】では、頭金とした1200万円に下落率3/4を掛け、頭金(特有財産)の現在価値は900万円です。
手順③
以上を踏まえて、財産分与の額を計算します。
【事例1】では、家の時価額3000万円から上記②の頭金(特有財産)の現在価値900万円を引くと、財産分与の対象となる価格は2100万円となります。
この2100万円に2分の1ルールを適用すると、財産分与の額は「2100万円×1/2=1050万円」となります。
これにより、妻は1050万円、夫は「1050万円+900万円=1950万円」を得ることとなります。
そして、夫が家を取得する前提であれば、妻に対して1050万円の財産分与をすることとなります。
2 住宅ローンが残っている住宅(家)
住宅ローンを組んで住宅(家)を買った(建てた)ものの、まだ住宅ローンの返済が残っている場合については、ローン残高が住宅の時価額を下回るアンダーローンの場合と、ローン残高が住宅の時価額を上回るオーバーローンの場合とに分けて、以下でご説明させていただきます。
(1)アンダーローン(ローン残高<住宅の時価額)の場合
アンダーローンの場合には、住宅の時価額からローン残高を引いた額が住宅の実質的価値となります。
例えば、住宅の時価額が3000万円であり、ローン残高が1000万円であれば、住宅の実質的価値は「3000万円-1000万円=2000万円」です。
この2000万円に2分の1ルールを適用すると、財産分与の額は「2000万円×1/2=1000万円」となります。
そして、夫婦の一方が家を取得し、住宅ローンを引き継ぐ前提であれば、他方に対して1000万円の財産分与をすることとなります。
住宅を購入する際の頭金に、特有財産があてられている場合には、財産分与の計算は以下のように行います。
【事例2】
夫婦で4000万円の家を建てた。
その際、夫の親から1200万円の援助があり、これを頭金とした。
残りの2800万円は住宅ローンを組んで夫婦で返済し、住宅ローンの残高は1000万円である。
家の時価は、現在、3000万円である。
手順①
住宅の価値の下落率を計算します。
【事例2】では、4000万円で建てた家の現在価値(時価)が3000万円となっているため、下落率は3/4です。
手順②
手順①の下落率から、頭金(特有財産)の現在価値を計算します。
【事例2】では、頭金とした1200万円に下落率3/4を掛け、頭金(特有財産)の現在価値は900万円です。
手順③
住宅の実質的価値を計算します。
【事例②】では、家の時価が3000万円に対し、住宅ローンの残高が1000万円ですので、家の実質的価値は「3000万円-1000万円=2000万円」です。
手順④
以上を踏まえて、財産分与の額を計算します。
【事例2】では、上記③の家の実質的価値2000万円から上記②の頭金(特有財産)の現在価値900万円を引くと、財産分与の対象となる価格は1100万円となります。
この1100万円に2分の1ルールを適用すると、財産分与の額は「1100万円×1/2=550万円」となります。
これにより、妻は550万円、夫は「550万円+900万円=1450万円」を得ることとなります。
そして、夫が家を取得し、住宅ローンを引き継ぐ前提であれば、夫が上記③の家の実質的価値2000万円をすべて手元に残すこととなりますので、妻に対して550万円の財産分与をすることとなります。
(2)オーバーローン(ローン残高>住宅の時価額)の場合
例えば、住宅の評価額が3000万円であり、ローン残高が4000万円であれば、マイナス1000万円のオーバーローンです。
オーバーローンの場合には、一般的には財産分与の対象とならないと考えられています。
住宅および住宅ローンが財産分与の対象から外されるため、その処理については夫婦間で話し合って決める必要があります。
オーバーローンの住宅の対応は、ローンを支払いながら夫婦どちらかが住み続けるか、売却するかの2つの方法が考えられます。
【売却について】
オーバーローンの場合、住宅の売却による解決は、難しいことが多いです。
アンダーローンの場合には住宅の売却によりお金が残る(そして、その残ったお金を夫婦で分配すればよい)のに対し、オーバーローンの場合には借金が残り、その残った借金が高額になることも多いという問題があります。
そして、住宅には通常、住宅ローンの抵当権が設定されますが、抵当権を抹消する前提でなければ、買い手はまず付きません。
融資をした金融機関としては、ローン残高を下回る金額で住宅を売却され、抵当権を抹消する前提となれば、売却代金を充当した後の残額について、無担保の(そして多くの場合には高額の)貸付を残すこととなります。
そうであれば金融機関がこのような売却を認めるかという問題がありますし(認めないことが多いでしょう)、もし認めたとしても無担保の貸付となれば住宅ローンよりも金利が高くなるのが通常です。
返済条件も厳しくなることが想定されますので、履行可能性に懸念が出てくることもあるでしょう。
無担保の貸付の利用可能額の問題から、そもそも住宅の売却という選択肢をとれないということも少なくないと思われます。
また、財産分与では、マイナスの財産の分与は認めないのが原則ですので、売却代金をローン残高に充当した後の残りの借金を夫婦で折半するという解決も、相手方が拒否すれば実現できません。
このように、オーバーローンの住宅の売却は、現実的な選択肢とは言えないことが多いでしょう。
【夫婦どちらかが住み続ける】
オーバーローンの場合、住宅ローンを支払いながら夫婦どちらかが住み続ける、という対応が現実的であることが多いでしょう。
この方法をとる場合には、通常、住宅に住み続ける側がローンの支払を継続するというケースが多いです。
一方で、離婚の条件として、住宅ローンの債務者である夫が離婚後も返済を負担し、妻(と子ども)が住宅に住み続ける、という取り決めをするなどの例も見られます(なお、この場合、融資をした金融機関に無断で住宅の所有名義を妻に移すと、ローン契約違反となる可能性がありますので、注意が必要です)。
住宅ローンが夫婦の連帯債務であったり、夫婦の一方が主債務者・他方が連帯保証人となっていたりする場合には、離婚に伴って連帯債務者や連帯保証人から抜けられるかという問題があります。
例えば、夫が住宅ローンの主債務者であり、離婚後もローンを支払いながら住宅に住み続けるという場合、妻としては連帯保証人から抜けたいと希望するのが通常です。
この場合にもし主債務者である夫が支払を滞納すれば、連帯保証人である妻のもとに請求が来てしまうからです。
連帯債務者や連帯保証人から抜けられるかどうかは、融資をした金融機関の審査次第となりますが、審査が通らなかったり、別の保証人や担保を立てることを求められたりする可能性があります。
あるいは、他の金融機関から住宅ローンの借り換えをし、連帯債務者や連帯保証人から外れることも考えられます。
借り換えにより解決できるかどうかも、その金融機関の審査次第となります。
また、住宅ローンの債務者である夫が離婚後も返済を負担し、妻(と子ども)が住宅に住み続ける、という取り決めをする例では、夫が住宅ローンの返済を滞納した場合に、家が失われてしまうというリスクがあります。
そこで、金融機関の審査次第となりますが、住宅ローンの債務者を妻に変更し、または妻の名義で住宅ローンの借り換えをするとともに、住宅の所有名義を妻に移す、という対応をとることが望ましいケースもあるでしょう。
オーバーローンの住宅の処理は、離婚において頭を悩ますことの多い問題です。
専門家である弁護士とも相談しながら、最適の対応方法を検討していきましょう。
3 弁護士にご相談ください
住宅(家)の財産分与についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、離婚問題に詳しい弁護士にまずはご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、これまでに、離婚問題や財産分与に関するご相談・ご依頼を多数お受けして参りました。
豊富な解決実績もございますので、ぜひ一度、お気軽に当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。
財産分与についてはこちらもご覧下さい
●財産分与について
●財産分与の対象となる財産
●財産分与の割合
●財産分与の基準時
●財産分与と住宅(家)
●借金がある場合の財産分与