1 配偶者の薬物使用を理由に離婚を考えるきっかけ

配偶者が覚せい剤や麻薬といった違法薬物を使用している場合、その家庭にはどのような問題があるでしょうか。
配偶者の逮捕、起訴、警察での事情聴取、裁判所への出頭、子供への影響等、他方の配偶者は大変な苦労に晒されることになるでしょう。
まずはこのような問題は夫婦間の話し合いによって解決することになります。
そのような話し合いができない場合には、離婚を検討すべきです。
では、どのようなきっかけから、配偶者の薬物使用で離婚を考えることになるのでしょうか。

(1) 人格の変化

離婚を検討すべききっかけの第1は、薬物使用によって配偶者の人格が変化したことです。
薬物を使用すると、気分の浮き沈みが激しくなったり、急に暴力的になったりと、人格の変化が顕著な症状として現れます。
人との接触を極端に避け、引きこもり、社交性が著しく低下することもあります。
配偶者にこのような人格の変化がみられる場合には、家庭環境の悪化を招き、離婚を検討すべきであるといえます。

(2) 薬物使用の道具の発見

離婚を検討すべききっかけの第2は、薬物を使用するための道具が発見された場合です。
薬物を使用するためには、使用している薬物そのものだけでなく、その薬物を体内に取り込む他の道具が必要となります。
その道具の代表的なものは、注射器や吸引具です。
これらの道具は、比較的小型で軽量なものが多いため、薬物を使用する配偶者は、自分のバックやポーチ、車内に保管していることが良くあります。
これらの道具が見つかった場合には、薬物の使用が疑われ、離婚を検討すべきであるといえます。

(3) 逮捕・処罰

離婚を検討すべききっかけの第3は、薬物を使用している配偶者が逮捕・処罰された場合です。
薬物の使用によって逮捕された場合には、警察での事情聴取や、裁判所への出頭等、様々な負担を負うことになります。
場合によっては、その人の著名性によりますが、新聞やテレビ等報道機関で報道されることにより、平穏な家庭環境が害されることもあります。
また、薬物の使用によって処罰された場合には、前科が付くことになります。
前科が付くことにより、子供への教育上の悪影響はより顕著なものとなるでしょう。
このように、配偶者が薬物の使用によって逮捕・処罰された場合には、離婚を検討すべきです。

2 配偶者の薬物使用を理由に離婚できるか?

では、配偶者の薬物使用を理由に離婚ができるのでしょうか。
後述するように、離婚にはいくつかの手続きが法律上定められています。
離婚協議や離婚調停では、配偶者同士の合意によって離婚することができるため、薬物使用を原因とする離婚に合意することが出来れば、離婚が成立することになります。
一方で、離婚訴訟では、法律で定められた離婚原因がなければ離婚することができません。
具体的には後述することになりますが、薬物使用によって婚姻生活が破綻し、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められることにより、離婚が成立することになります。

3 配偶者の薬物使用による離婚の場合に慰謝料請求できるか?

薬物使用による離婚の場合に、慰謝料請求ができるのでしょうか。
慰謝料とは、配偶者の有責な行為の被害によって離婚となる場合に発生するものです。
薬物の使用それ自体は、加害行為であるとまではいえませんので、通常は慰謝料の発生原因となる有責行為にはあたらないと考えられます。
したがって、薬物使用による離婚の場合に、直ちに慰謝料が発生するわけではありません。
ただし、薬物の使用を通じて知り合った異性と不貞関係になった場合、薬物の入手にお金を使いすぎて家計に生活費を全く入れなかった場合、薬物の影響で正常な判断能力が失われて暴力をふるった場合などのように、離婚の原因となる有責な行為の被害を受けた場合には、慰謝料請求が認められることになります。

4 薬物を使用する配偶者との離婚を進める方法

では、薬物を使用する配偶者と離婚する場合、どのように離婚手続きを進めることになるのでしょうか。

(1) 離婚協議

夫婦が離婚に合意すれば、離婚届を市町村役場に提出することで離婚することができます。

(2) 離婚調停

離婚協議ができない場合、家庭裁判所の手続きを利用して離婚をすることになります。
まず、家庭裁判所の手続きを利用して離婚をするためには、離婚調停という手続きを先に行う必要があります(このことを「調停前置主義」と言います)。
この離婚調停というものは、家庭裁判所の手続きではありますが、あくまで当事者同士による話し合いを行うことになります。
その話し合いに際し、調停委員という第三者が間に入って当事者の意向を探り、合意に向けて仲介を図ってもらえます。
離婚調停において、離婚に合意できれば離婚が成立します。
離婚に合意できない、あるいは離婚に伴う条件に合意できない場合には、次の離婚訴訟に進むことになります。

(3) 離婚訴訟

離婚訴訟とは、離婚調停においても離婚できない場合に、家庭裁判所が離婚原因の存在を認定すれば、判決によって強制的に離婚させるという手続きとなります。
判決に当事者の意向は関係なく、離婚原因が認められる場合には、離婚に反対する当事者の意向に関係なく離婚が成立することになります。
具体的に薬物使用が離婚原因に該当すると認められるためには、薬物使用によって家庭が崩壊した事実を証拠によって示し、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することを主張することになります。
この要件に該当すると認められた場合には、判決によって離婚が成立することになります。

5 弁護士にご相談ください

以上のように、薬物使用による離婚には、複雑な法的問題が含まれます。
法律に詳しくない方がご自分で薬物使用による離婚を進めるには手間がかかり、日々の生活の中でこのような法的手続きを進めることは煩わしいものです。
離婚問題に精通した弁護士であれば、依頼者の最善の利益を図るためにスムーズに離婚の手続きを進めることが出来ます。
薬物使用による離婚でお困りの方は、お気軽に当事務所までご相談ください。