養育費・婚姻費用の支払義務者が会社・法人の経営者である場合、役員報酬を支払義務者の収入として養育費・婚姻費用の算定を行うのが通常です。
これに加え、養育費・婚姻費用の算定において会社・法人の収益(内部留保)を考慮する(支払義務者の収入と同視する)ことができるか?という争いが生じることがあります。
この問題は、養育費・婚姻費用の支払義務者が経営する会社・法人が小規模なものであり、養育費・婚姻費用の支払義務者が唯一の株主・代表者であるという事案で問題となることが多いように見受けられます。

この点、東京高等裁判所令和4年5月24日決定では、「一人会社であっても、法人格が形骸化し又は濫用されている場合でない限り、人格の異なる会社の内部留保を株主が自由に使用できるわけではないから、直ちに株主個人の収入と同視することはできない」との判断が示されました。
このように、養育費・婚姻費用の算定において会社・法人の収益(内部留保)を考慮する(支払義務者の収入と同視する)ことはできないのが原則です。

一方で、会社・法人の法人格が形骸化し、または濫用されている場合には、例外的に、養育費・婚姻費用の算定において会社・法人の収益(内部留保)を考慮する(支払義務者の収入と同視する)ことができると考えられます。
例えば、①会社・法人とは名ばかりで実際には業務・資産・会計などが個人と混同しているような事案、②会社・法人の経営状況が順調であるにもかかわらず、離婚問題が発生してから突然役員報酬を減額し、多額の内部留保をし始めたような事案などでは、法人格の形骸化・濫用が認められる可能性があります。