夫婦の同居期間中、多くの家庭では夫名義の口座に児童手当が振り込まれています。
これは、児童手当法4条1項1号・4条3項により、夫婦のうち所得が高い側が児童手当の受給権者とされるためです。

そして、この状態で妻が子どもを連れて夫婦別居を開始すると、別居後も夫名義の口座に児童手当が振り込まれ続けることとなります。
この場合、妻としては「別居後に夫名義の口座に振り込まれた児童手当を返還してほしい」と希望するのが通常でしょう。

この点、夫婦が別居した場合には、児童手当法4条4項によれば、子どもと同居する側が児童手当の受給権者となります。
妻が子どもを連れて夫婦別居を開始すれば、妻が児童手当の受給権を有することになる、ということです。

にもかかわらず、夫が別居後も児童手当を受給し続けた場合には、夫は本来ならば妻が受給すべき金銭を不当に受け取っている、ということになります。
そのため、法律上、夫は妻に対して、受け取った児童手当の受給額を返還する義務を負うこととなります(東京地方裁判所平成29年11月6日判決)。

このように、子どもと生活している妻は、夫に対し、別居後に夫名義の口座に振り込まれた児童手当の返還を求めることができます。
そして、その返還については、離婚協議や離婚調停・婚姻費用分担調停での話し合いで解決できるのであれば、大きな問題はありません。
実際には、多くのケースでは夫から任意の返還を受けられます。

しかし、夫が任意の返還に応じない場合には、対応に苦慮することになるのが通常です。
この点、養育費・婚姻費用等の調停・審判では、法律上、本来ならば児童手当の返還は審理の対象外とされています(東京高等裁判所平成21年4月21日決定)。
そのため、一応の話し合いを試みて解決ができなければ、家庭裁判所からは「あとは裁判でやってください」などと促されることとなるでしょう。

そして、夫名義の口座に振り込まれた児童手当を、法的強制力をもって返還させるとなれば、裁判(不当利得返還請求訴訟)を提起する必要が出てきます。
しかし、裁判にかかる弁護士費用等の経費や手間を考えると、確実に赤字となってしまいますし、裁判の提起はとても費用対効果に見合うものではありません。

児童手当の返還をめぐる無用のトラブルを防止するためには、できる限り速やかに、市町村役場で児童手当の受給者の変更(児童手当の振込先口座を夫名義の口座から妻名義の口座に変更する)の手続を行うのがよいでしょう。

【関連Q&A】
私は夫と別居し、子どもと一緒に暮らしているのですが、児童手当が夫名義の口座に振り込まれています。私名義の口座に振り込まれるようにできないでしょうか?