養育費・婚姻費用の「算定表」は、支払義務者の年収(給与)が2000万円までの表となっています。
支払義務者の年収が2000万円以上の場合の計算は、実務上、おおむね次のように考えられています。
1 婚姻費用
年収が2000万円に比較的近ければ、基本的に「算定表」の上限である2000万円のゾーンの金額で認定されます。
年収が2000万円を大幅に超える場合には、事案ごとの個別的事情を考慮しながら、貯蓄や資産形成に回される金額も多いことを前提に、計算の基礎となる年収額に修正を加えるなどの判断をしています。
2 養育費
養育費には、衣食住費・教育費・医療費・娯楽費等が含まれます。
このような費用は、親が高収入であるからといって、無制限に増加する性質のものではありません。
そのため、子どもが1人の場合の養育費は、基本的に「算定表」の上限である2000万円のゾーンの金額で認定されます。
子どもが2人以上の場合には、子どもが1人の場合の考え方を参考にしつつ、事案ごとに個別的事情を考慮して検討します。
3 具体的な計算例
以下の説明は、「算定表」の元となる「標準算定方式」を前提とするものです。
「標準算定方式」については、次のQ&A記事をご参照ください。
●養育費の標準算定方式による計算方法は?
●婚姻費用の標準算定方式による計算方法は?
【事例】
夫の年収(給与)が4000万円である。
妻の年収(給与)が150万円である。
夫と妻の間には、1歳の子どもが1人いる。
夫と妻が別居となり、子どもは妻と同居している。
婚姻費用の金額はどのように算定されるか?
上記の【事例】では、「標準算定方式」により、以下のように婚姻費用の金額が算定されます。
なお、ここでは、夫が非常に高収入であることを考慮し、夫の基礎収入を計算する際に用いる基礎収入割合を、標準的な数値である「38%~54%」の下限を下回る「32%」とする修正を行うものとします。
このように、年収2000万円を超える高額所得者の場合に、「標準算定方式」の基礎収入割合の下限よりも低い数値を用いて、婚姻費用の計算をした裁判例があります。
①夫婦の基礎収入の合計を計算する。
・夫の基礎収入:4000万円×32%=1280万円
・妻の基礎収入:150万円×44%=66万円
・夫婦の基礎収入の合計:1280万円+66万円=1346万円
②子どもとの同居状況に応じて夫婦それぞれの生活費指数を計算する。
・夫の世帯の生活費指数:100
・妻の世帯の生活費指数:100+62=162
③夫婦それぞれに必要となる生活費の金額を計算する。
・夫に必要となる生活費:1346万円×100/(100+162)≒514万円
・妻に必要となる生活費:1346万円×162/(100+162)≒832万円
④必要となる生活費に不足している金額を計算する。
・婚姻費用の年額:832万円-66万円=766万円
・婚姻費用の月額:766万円÷12か月≒63万8000円