年金についても、給与や事業所得と同様、養育費・婚姻費用を算定する基礎となります。
ただし、給与所得者の場合には就労するための職業費(例えば、スーツ等の購入費や仕事関係の交際費・接待費用など)がかかるのに対し、年金受給のためには職業費が必要ということはありません。
そのため、年金額に修正を加えたうえで、養育費・婚姻費用の算定表への当てはめや、標準算定方式による計算を行うのが相当と考えられます。
ここで、給与所得者の職業費の統計値は、おおむね15%であることから、「年金額÷0.85」という割り戻し計算により、年金額を給与額に換算することが考えられます(このような方式をとった裁判例として、東京高等裁判所令和4年3月17日決定など)。
例えば、年金額が年額150万円の場合、給与額に換算すると「150万円÷0.85=176万4705円」となります。
そして、この176万4705円を前提に、養育費・婚姻費用の算定表への当てはめや、標準算定方式による計算を行うこととなります。
年金と給与の収入が両方ある場合もあり、このような場合には換算後の年金と給与の額を合算することとなります。
例えば、年間150万円の年金と年間100万円の給与がある場合には、「176万4705円+100万円=276万4705円」を前提に、養育費・婚姻費用の算定表への当てはめや、標準算定方式による計算を行います。
なお、年金収入と事業所得が両方ある場合、年金額から社会保険料を控除することにより、事業所得に換算することができます。
障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)についても、同様に考えます。
障害年金について婚姻費用を算定する基礎とし、障害年金の額を0.85で割り戻した金額を前提に、婚姻費用を算定した裁判例があります(さいたま家庭裁判所越谷支部令和3年10月21日審判)。
ただし、障害年金の受給者の場合、医療費などの特別な経費がかかることも多く、このような経費を考慮する必要があります。
例えば、上記の裁判例(さいたま家庭裁判所越谷支部令和3年10月21日審判)では、計算上は婚姻費用の額が月額14万円程度と算出されたところ、障害年金を受給している支払義務者が年間6万円程度の医療費がかかることを考慮し、婚姻費用の額を最終的に月額13万円と定める判断をしています。
また、別の裁判例として、婚姻費用の権利者が障害年金の受給者であることを考慮し、換算後の収入額を前提に算出した婚姻費用(月額約8万8500円)に対し、若干の上乗せをする判断をしたもの(月額9万円)があります(福岡高等裁判所平成29年7月12日決定)。
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