DV(ドメスティック・バイオレンス)の一種として、金銭的な自由を奪う「経済的DV」というものがあります。
このページでは、配偶者から経済的な締め付けを受け、離婚をお考えの方のために、経済的DVの被害による離婚について、解説させていただきます。

1 経済的DVとは

経済的DVとは、金銭的な自由を奪うことにより、経済的に追い詰める行為のことを指します。

DVとは、配偶者による暴力のことを意味します。
配偶者による暴力としては、殴る、蹴る、物を投げつけるなどの物理的なものだけではなく、言葉や態度により精神的に攻撃するものもあります。
また、上記のように配偶者を経済的に締め付ける行為もまた、経済的DVとしてDVの一類型にあたるものとされます。

2 経済的DVの具体例

経済的DVにあたる可能性がある行為の具体例として、以下のようなものがあります。

(1)生活費を渡してくれない

収入があるのに生活費を渡さず、または明らかに不十分な金額の生活費しか渡さない行為は、経済的DVにあたる可能性があります。
独身時代の貯蓄を切り崩す、両親の援助を得る、借金をするなどして生活費を補わざるを得ないような場合には、経済的DVにあたると判断される可能性が高いでしょう。
ただし、夫婦共働きであり、配偶者が生活費を渡してくれなくても生活に支障がないような場合には、経済的DVにはあたらないと考えられます。

(2)自由に使えるお金を認めてくれない

配偶者が家計をすべて管理し、お小遣いすら渡されず、自由に使えるお金を認めてもらえないような場合には、経済的DVにあたる可能性があります。
家計の管理は、夫婦が話し合いをし、納得したうえで決めるべき事柄です。
にもかかわらず、一方が夫婦の財布をすべて握り、他方が自由に使えるお金を認めないというのは、不当な経済的締め付けであると言えるでしょう。

(3)仕事をして収入を得ることを認めてくれない

働いて収入を得たいと考えているにもかかわらず、主婦/主夫であることを強要し、仕事をすることを認めず、または仕事を辞めさせる行為は、経済的DVにあたる可能性があります。
このような行為は、配偶者を金銭面で支配し、自身が優位に立ちたいという考えの表れと見ることができます。

(4)仕事をしてくれない

夫婦共働きをしなければ生活費が足りないのに、配偶者が正当な理由(病気・怪我など)なく仕事をしてくれず、一方的に経済的負担を強いられている場合には、経済的DVにあたる可能性があります。

(5)借金・浪費をする

配偶者が自分勝手な理由で借金をし、家計が苦しくなっている場合には、経済的DVにあたる可能性があります。
配偶者が飲食・遊興やギャンブルのために浪費をし、家計を立ち行かなくさせている場合にも、経済的DVにあたる可能性があります。

(6)過度な倹約を強要される

収入が十分にあるにもかかわらず、過度な節約を強要する行為は、経済的DVにあたる可能性があります。
具体的には、買い物のレシートを細かくチェックする、家の中に新しく増えた物に過敏に反応する、無駄遣いを厳しく指摘するなどの行動です。

(7)お金に関する暴言を浴びせられる

「俺がお前を養ってやっている」、「俺が物を買ってやっている」、「誰が飯を食わせてやっていると思っているんだ?」などのお金に関する暴言も、経済的DVにあたる可能性があります。

3 経済的DVの被害による離婚は認められるか?

夫婦が話し合いにより離婚をすることに合意できれば、離婚の理由はどうあれ離婚を成立させることができます。
また、夫婦間の話し合いがまとまらず、家庭裁判所に離婚調停を申し立てた場合でも、最終的に離婚をすることで合意に至れば、離婚を成立させることが可能です。

しかし、離婚調停でも合意に至らず、家庭裁判所に離婚訴訟を提起する場合には、法律上の離婚原因が認められなければ、離婚を認める判決を得ることはできません。

【法律上の離婚原因】
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由

経済的DVの被害を受けた場合には、法律上の離婚原因のうち、「悪意の遺棄」または「その他婚姻を継続し難い重大の事由」に該当する可能性があります。

しかし、「悪意の遺棄」については、単に夫婦間の相互に協力・扶助する義務(民法752条)を果たさないことだけではなく、そのような行為が夫婦の共同生活を積極的に破たんさせる意図のもとに行われたこと、および、そのような状態が一定期間継続していることが必要であると考えられています。
実際に「悪意の遺棄」が成立するとまで認められるケースは、少ないのが実情です。

一方で、経済的DVにより金銭的な自由を奪う行為は、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」と認定される可能性があります。
経済的DVにあたる具体的な事実関係をしっかりと主張・立証できれば、離婚を認める判決を得られる可能性が高まります。

4 経済的DVの被害による慰謝料請求は認められるか?

経済的DVは、夫婦が相互に助け合う義務(民法752条)に違反する行為であると言えます。
そのため、経済的DVの被害により離婚を余儀なくされ、精神的な苦痛を被った場合には、慰謝料を請求することができます。

ただし、配偶者が経済的DVにあたる事実関係を否認したり、自身の非を認めなかったりすることも多いため、慰謝料請求をするためには証拠が必要となるのが通常です。

どのようなものが経済的DVの証拠になるかについては、後述いたします。

5 経済的DVの被害による離婚に向けた対応の手順

経済的DVの被害による離婚をご希望の場合には、離婚に向けて以下のような手順で対応を進めるのがよいでしょう。

(1)経済的DVの証拠を集める

経済的DVの被害による離婚や慰謝料の請求をする場合には、経済的DVの事実を裏付ける客観的な証拠の存在が重要となります。

配偶者が経済的DVの事実を否認し、離婚を拒否したり、慰謝料を争ったりしてきた場合には、客観的な証拠がなければ、離婚や慰謝料の請求が認められるのは難しくなってしまうためです。

そこで、離婚に向けて別居や手続を進める前に、可能な限り経済的DVの証拠を集めておくようにしましょう。
経済的DVの事実を裏付けるための証拠としては、次のようなものが考えられます。

家計簿(生活が苦しくなっていることが分かるもの)
預金通帳・取引履歴(配偶者が生活費を振り込んでくれなくなったことが分かるもの)
録音記録、LINE・メールの履歴(配偶者のお金に関する暴言があったことが分かるもの)
クレジットカードの明細(配偶者が浪費していることが分かるもの)
借用書、サラ金の利用明細・請求書(配偶者の借金の状況が分かるもの)
日記(経済的DVの被害状況の記載があるもの)

(2)別居をする

夫婦が離婚する前段階として別居状態になることは、よくあることです。

離婚の希望を伝えたものの配偶者が応じてくれない場合、配偶者が高圧的であるために正常な離婚の話し合いが困難である場合、配偶者との同居生活を続けることにより子どもに悪影響がある場合などには、配偶者との別居を検討するのがよいでしょう。

別居をする場合には、事前準備として、前述のとおり、経済的DVの証拠を集めておくとよいでしょう。
また、後々、財産分与の請求をお考えの場合には、配偶者の財産関係の証拠(預金通帳、保険証券、証券会社からの郵便物など)を確保しておく(コピーをとる、写真をとるなど)ことをお勧めいたします。

子どもがいる場合、保育園・幼稚園・小学校を転園・転校するのであれば、事前に保育園・幼稚園・小学校との連絡・調整が必要となるでしょう。
また、子どもの健康保険の切り替え、児童手当の振込先の変更など、市町村役場での相談・手続が必要となってきます。

別居の際に持ち出すものについても、十分な検討が必要です。
家具・家財のほとんどを持ち出すような対応をすれば、後々、トラブルになるおそれがあります。
一方で、一旦別居状態となってしまえば、後日、家に出入りすることが困難になることが考えられますので、手元になければ困るものは忘れずに持ち出すようにしましょう。
例えば、財布、携帯電話、預金通帳、カード類、実印、免許証、健康保険証、パスポート、免許証、仕事で必要不可欠なもの、捨てられない大事なもの(思い出の品など)、当面の間の衣類などは、必ず持ち出すべきです。

もし仕事をしていない場合には、就職活動をして収入を確保する必要がありますし、すぐに働くことができないのであれば、親族・家族の援助を受けるなど経済的な自立についても考えておく必要があります。

(3)離婚の手続を進める

離婚の手続には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3段階があります。

夫婦が話し合いにより離婚をすること、および離婚の条件(子どものこと、お金のことなど)に合意できれば、離婚届に夫婦双方がサインし、市町村役場に提出することにより離婚が成立します。
これを「協議離婚」と言います。
離婚の手続としては、まずは協議離婚を目指すのが通常です。

しかし、夫婦同士の話し合いによる解決が難しければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。
離婚調停は、家庭裁判所の調停委員が仲介者となり、合意の形成に向けた話し合いを行う手続です。
調停の席で夫婦間の合意に至れば、離婚成立となります。
これを「調停離婚」と言います。

離婚調停でも合意ができなければ、調停が不成立で終了となります。
それでも離婚を求める場合には、次のステップとして、家庭裁判所に離婚訴訟を提起することとなります。
離婚訴訟では、夫婦双方の主張内容と証拠資料をもとに、最終的に裁判官が判決を下すこととなります。
離婚を認める判決を得られれば離婚が成立することとなり、これを「裁判離婚」と言います。
また、離婚訴訟の手続中も裁判官の仲介のもとで離婚の合意に至り、裁判上の和解により解決となることもあります。

(4)婚姻費用を請求する

夫婦が別居状態となった場合には、収入の少ない側が多い側に対し、生活費の支払を請求することができます。
これを婚姻費用の分担請求と言います。

婚姻費用の支払および金額は、夫婦間の合意があればそれに従うこととなります。
しかし、経済的DVの加害者は、すんなりと婚姻費用の支払に応じてこないことも多いと考えられます。

婚姻費用に関する話し合いが難しい場合や、話し合いをしたものの支払を拒否された場合には、家庭裁判所に婚姻費用の支払を求める調停を申し立てることができます。
調停で合意に至らなければ、審判の手続に移行し、裁判官が婚姻費用の支払および金額について判断をします。

(5)弁護士に相談する

経済的DVの被害による離婚をお考えの場合には、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

経済的DVの加害者は、離婚の話し合いを持ちかけても、まともな話し合いにならないことも少なくないと考えられます。
離婚の話し合いをしようとしても怒鳴りつけられるとか、そもそも配偶者に委縮して離婚を切り出せないなどのケースもあるでしょう。

弁護士にご相談いただくことにより、経済的DVの証拠収集、別居および離婚に向けた段取りに関するアドバイスを受けることができるでしょう。
また、弁護士に代理対応を依頼することにより、弁護士が代理人として配偶者との交渉窓口となりますので、配偶者と直接話をしたり、顔を合わせたりする必要もなくなります。

また、弁護士は法的手続の専門家ですから、家庭裁判所での調停や訴訟の手続にも難なく対応することが可能です。
経済的DVの加害者との離婚問題については、弁護士を活用することをご検討いただければと存じます。

6 弁護士にご相談ください

当事務所では、離婚問題に関するご相談・ご依頼を多数お受けしており、解決実績も豊富にございます。
経済的DVの被害による離婚についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。