経営者の離婚には、通常の世帯とは異なる特有の問題があります。

ここでは、一方が経営者の場合に注意しなければならない主な問題についてご紹介いたします。

1 経営者の場合も財産分与の割合は2分の1か?

その問題の1つは、財産分与についてです。
まず、財産分与の割合は、原則として2分の1とされます(これを「2分の1ルール」といいます)。
この2分の1ルールは、共働きの夫婦であっても、妻が専業主婦の場合であっても、同じく適用されます。

しかし、経営者自身の特別な才覚や努力によって多額の資産が形成された場合には、2分の1ルールが適用されず、財産分与の割合が低くなることがあります。

例えば、プロパンガス販売の経営者の離婚にあたって、財産分与の割合が70:30とされた裁判例があります。

2 事業用の財産・会社名義の財産は財産分与の対象となるか?

自営業者の場合、事業用の財産は、法律上、個人の財産とされます。
そのため、結婚期間中に形成された事業用の財産は、原則として財産分与の対象となります。

これに対し、法人化された会社を経営している場合、会社名義の財産は、法律上、個人の所有物ではなく、あくまで会社の所有物となります。
したがって、会社名義の財産は、原則として財産分与の対象外となります。
ただし、小規模な同族法人であるなど、個人事業と変わらないと言える場合で、実質的に個人の財産と同視できるときは、会社名義の財産も財産分与の対象となることがあります。
また、会社の株式・出資持分を保有している場合には、株式・出資持分は個人の財産であるため、財産分与の対象となります。

なお、事業用の財産・会社名義の財産が財産分与の対象となる場合であっても、前述のように、「2分の1ルール」が修正される可能性があります。

3 経営者が配偶者を従業員として雇用している場合、離婚を理由に解雇できるか?

次に、経営者が配偶者を従業員として雇用している場合、離婚するにあたって、配偶者を解雇することができるのかという問題があります。
この点、夫婦の問題と雇用関係の問題は、法律上別個のものです。
そのため、例えば、配偶者が不倫や浮気をしていた場合でも、そのことのみを理由に配偶者を一方的に解雇することはできません。

また、勤務成績が悪いことなどを理由に解雇する場合でも、解雇が相当と認められるかどうかは、慎重な判断が必要です。
ただ、配偶者の不倫・浮気相手が同じ職場内の従業員であった場合は、職場内の不倫・浮気を理由とする解雇を有効としている裁判例もあるので、判断が分かれるところでしょう。

いずれにせよ、従業員として雇用している配偶者と離婚の話し合いをする際には、雇用関係の問題も一緒に解決する必要があることを念頭に置かないと、離婚の際に大きな障害になります。

4 経営者の場合に子どもの親権争いに有利・不利はあるか?

未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする場合、親権者を指定しなければなりません。
夫婦の一方が経営者の場合、子どもを跡継ぎとすることを強く希望し、親権をめぐる争いが起こることがあります。

親権の判断では、これまでの子どもの監護状況や離婚後の監護環境が重視されます。
これに対し、経済的に余裕があることは、親権の判断において、それほど有利に考慮されることはありません。
収入の少ない側でも、養育費を受け取ることにより、養育水準を維持できると考えられるのが通常であるからです。

そのため、経営者が高収入であることは、親権争いにおいて直ちに有利となることはなく、それよりも、これまでに夫婦のいずれが育児を中心に担ってきたか、という点が重要となるのが通常です。
また、子どもが意思表示できる年齢であれば、子どもの意思も考慮されます。

5 経営者の場合に養育費・婚姻費用をどのように計算するか?

経営者は、高額所得者であることも多いです。
役員報酬で年2000万円を超える、あるいは事業所得として1567万円を超える場合には、養育費・婚姻費用の計算において、特殊な考慮が必要となることがあります。

この点、養育費・婚姻費用の最低では、家庭裁判所が使用する算定表を参照することが多いです。
しかし、算定表には、役員報酬2000万円・事業所得1567万円までしか記載がありません。
そのため、高額所得者の場合には、養育費・婚姻費用の算定表をそのまま適用することができず、通常とは異なる計算方法等をとる必要があることも考えられるのです。

6 どのような場合に慰謝料が発生するか?

慰謝料は、DV(暴力)、モラハラ、不倫・浮気などの有責な行為がある場合に認められます。
慰謝料の額は、有責行為の内容・程度や精神的苦痛の程度により変わってくるのであり、加害者の職業・収入により左右される性質のものではありません。
したがって、夫婦の一方が高収入の経営者であるからといって、慰謝料が高額になるわけではありません。

7 まずは弁護士にご相談ください

経営者の離婚には、上記のポイントをはじめ、経営者に特有の多くの問題がついて回ります。
お困りのときはお気軽に当事務所にご相談ください。

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