我が国では少子高齢化が進んでおり、介護の問題は誰もが直面し得るものです。
配偶者の親の介護負担を理由に離婚を考える方もいらっしゃいます。
このページでは、配偶者の親の介護を理由とする離婚に関する問題について、ご説明させていただきます。

配偶者の親を介護する義務はあるか?

親を介護する義務とは、法律的に見れば、扶養義務の一部を構成すると考えることができます。
この扶養義務は、民法877条1項によれば「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」とされています。
ここに書かれている直系血族とは、自分の両親や子のように、血のつながった関係にある縦方向の親族のことを言います。
自分の配偶者の両親は直系血族には当たらないため、義理の両親に対し扶養義務、つまり介護義務はないのが原則となります。
介護をする義務は法律的には存在しませんので、道義的な問題はさておき、法律的には介護を断ることができます。

ただし、これには例外的な事例が3つ存在します。

まず、①義理の両親と同居している場合が挙げられます。
民法730条には、「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」とされており、義理の配偶者と同居している場合にはこの「同居の親族」に該当するため、扶養義務を負うことになります。

また、②義理の両親と養子縁組をした場合には、義理の両親と直系血族の関係となるため、義理の両親に対し扶養義務を負うことになります。

さらに、民法877条2項によれば、扶養義務は、家庭裁判所が「特別な事情」があると判断した場合には、3親等内の親族に扶養義務が生じることになります。
そのため、③「特別な事情」があると家庭裁判所に判断された場合にも、義理の両親に対して扶養義務を負うことになります。
もっとも、「特別な事情」があると判断されるケースは、家庭裁判所の審判という裁判所の手続きを経ることで初めて生じるもので、相当の経済的恩恵を受けているなど、限定的な例でしか認められることはありません。
血のつながっていない義理の親族に対し扶養義務という重い法律上の責任を負うことになるため、このような取り扱いは当然のことと言えます。

法律的に例外的な保護義務が課されることになる場合には、仮に義理の両親を介護せずに放置すると、法律的な責任、慰謝料請求や、悪質な場合には保護責任者遺棄致死罪(刑法218条、219条)に問われることになりますので注意が必要です。

配偶者の親の介護による離婚が認められるケース

配偶者の親の介護により離婚が認められるケースは、まず、夫婦双方が離婚に同意している場合が考えられます。
夫婦がお互いに離婚に同意している以上、離婚の原因やきっかけは関係なく、離婚をすることができます。
一方の配偶者が離婚を拒否している場合には、後述するように、法律上の離婚原因が認められる必要があります。

法律上の離婚原因とは、後述する離婚調停を経たあとの離婚訴訟において問題となる法律上の離婚要件です。
離婚原因として法律上定められたものは、5つありますが、義理の両親の介護問題は「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが問題となります。
この要件は、非常に抽象的で分かりづらいものとなっていますので、裁判においてこの要件を満たすことが認められるためには、介護問題が離婚に発展したことを具体的かつ説得的に主張・立証する必要があります。

例えば、結婚してから義理の両親の介護が始まるまでの経緯、介護の期間、介護の内容、配偶者の態度、介護による肉体的・精神的負担等の事情を証拠に基づいて主張することになります。
このようにして事実関係を明らかにし、義理の両親の介護により婚姻関係が破綻していると裁判所に認められた場合には、離婚をすることができます。

親の介護が離婚問題に発展する理由

義理の両親の介護が離婚問題まで発展するのは、一人で介護の負担を抱え込んでしまっていることが大きな原因と考えられます。
もともと義理の両親と不仲である場合、義理の両親の介護に対する協力が得られない場合、義理の両親の介護をしても感謝されない場合などには、介護の負担は大きなストレスとなることでしょう。

そこで、まずは介護の大変さと苦労を配偶者に伝え、理解や協力を得られないか話し合うことが大切です。
配偶者以外の親族に協力を求めることも解決策の一つです。
親族が近くに住んでいる場合には、少しでも協力が得られれば、介護の負担が大きく減ることも考えられます。
また、デイサービスや介護サービスを利用することもできます。
費用が掛かることになりますが、職業的専門家が介護することになるので、負担は大きく軽減されるでしょう。

しかし、このような解決が図られず、離婚を決意する例も存在し、無理からぬことと言えるでしょう。

配偶者の親の介護を理由とする離婚の手続き

義理の両親の介護を理由に離婚を希望する場合には、次の手続きを踏むことになります。

①協議離婚

協議離婚とは、話し合いによって離婚をするものです。
双方が離婚に合意すれば、離婚問題まで発展した原因のいかんを問わず離婚をすることができます。

②調停離婚

協議離婚ができない場合には、家庭裁判所の手続きを利用して離婚を進めていくことになりますが、離婚についていきなり訴訟(裁判)を起こすことはできません。
まず離婚調停を申し立て、そこで調停委員という第三者を交えて、離婚について話し合いを進めていくことになります。
この離婚調停においても離婚が成立しない場合には、裁判離婚に移行します。

③裁判離婚

裁判離婚とは、法律上の離婚原因が認められる場合に、双方の離婚意思にかかわらず離婚を家庭裁判所が成立させるというものです。
ここでは、前述したように、離婚原因の立証が重要となりますので、義理の両親の介護を理由として離婚を求める場合には、この点の立証活動の成否が離婚の成否に直結することになります。

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