不妊は、夫婦において非常にデリケートで難しい問題です。
不妊が原因で夫婦関係が気まずくなり、気持ちのすれ違いが生じるなどし、離婚を考える方は少なくありません。

このページでは、
1 不妊で離婚を考える理由
2 不妊の原因
3 不妊を理由に離婚できるか?
4 不妊を理由に慰謝料を請求できるか?
ということについてお話しさせていただきます。

1 不妊で離婚を考える理由

それぞれの夫婦によって具体的な事情は異なりますが、不妊が原因となり離婚を考える方の多くは、以下の4つの理由のいずれかの理由で離婚を考えることが多いように思います。

・妊活が原因で夫婦関係が不穏になる

妊活をする場合には、ご自身たちで調べて行う場合に加え、医療機関を利用して不妊治療される方も多いかと思います。
妊活をすると、高額な費用が発生することや、生活が制限されることにより、精神的な余裕がなくなり、ストレスが積み重なることで喧嘩をしてしまうことが増え、夫婦関係が不穏になるケースがあります。

・配偶者が妊活に非協力的

夫婦間の妊活に対する温度差があることによって、日々の言動において配偶者が妊活に非協力的な発言をするケースや、妊活を予定していた日に配偶者が突然性行為を断る、先に寝てしまうなどのケースもあります。
また、不妊治療について、消極的な発言、検査を断るようなケースもあります。
このような言動が積み重なり、喧嘩が増えるなどし、信頼関係が薄れてしまいます。

・一方に不妊の原因があった

不妊治療の一環として検査をすると、不妊の原因が夫婦のいずれか一方にあるということがわかるケースがあります。
不妊の原因がある配偶者は、相手に対して萎縮し、相手のために別れた方が良いのではないかと考えてしまうことがあります。
一方で、不妊の原因がない配偶者としては、相手の気持ちに十分に配慮することができない言動をしてしまうことや、どうすれば良いか思い悩んでしまうことがあります。

・子どもができないのであれば離婚するという価値観

夫婦の一方が、子どもができないのであれば離婚するという価値観を持っているケースもありますが、夫婦の両親がこのような価値観であるケースもあります。
夫婦の一方の両親が、このような価値観である場合には、この価値観を執拗に押し付けることにより、夫婦仲が悪化してしまうこともあります。

2 不妊の原因

公益社団法人日本産科婦人科学会では、「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものと定義づけています。
そして、公益社団法人日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。

不妊の原因については、詳細な内容をお知りになりたい方は医学的な知見に基づき記載されているHPを参照していただくのが良いかと思いますが、男女それぞれの主な不妊の原因は以下のとおりです。

女性の不妊の原因

・子宮因子
子宮筋腫や先天的に子宮が変形している子宮形態異常の原因により、主に受精卵(胚)の着床を妨げるなどの障害のことをいいます。

・頸管に関する障害
子宮頸部の手術、子宮頸部の炎症などの原因により、頸管内の粘液量が少ない、精子の貫通に適していない状態となる障害のことをいいます。

・排卵に関する障害
極端な月経不順や早発卵巣不全などの原因により、排卵が行われない障害のことをいいます。

・卵管に関する障害
性器クラミジア感染症などの病気が原因となり、卵管の閉塞や卵管周囲の癒着をきたし、精子が卵子に向かい、受精卵(胚)が子宮に戻る道(卵管)が詰まってしまう障害のことをいいます。

・免疫に関する障害
免疫異常で精子を攻撃する抗精子抗体が頸管や卵管で分泌されることが原因となり、精子が卵子へ到達・結合することを妨害される障害のことをいいます。

・加齢による影響
加齢による影響で、妊娠する力(妊孕性)が低下するものです。
特に女性ですと、20代後半から徐々に衰え始め、30代後半で急速に自然に妊娠する能力が低下します。

男性の不妊の原因

・性機能に関する障害
勃起が起こらず性行為を行うことができない勃起障害(ED)と膣内で射精することができない射精障害があります。
射精障害に関しては、射精はできているものの精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精や精液が出なくなる無精液症などもあります。
勃起障害は、糖尿病や動脈硬化を一因とする神経性・血管性の原因もありますが、ストレスや不妊治療として行う性行為に対するプレッシャーのような心因性の原因が多いといわれています。
また、射精障害に関しても、勃起障害と同様に、心因性、神経性などの原因によるものと考えられています。

・造精機能に関する障害
現在原因は多々あるものの、その多くは原因が不明であることが多く、精子の数に関する障害(精子の数が少ない、または無い)、精子の運動性に関する障害、奇形率に関する障害などの障害のことをいいます。

・精路通過に関する障害
先天性の両側精管欠損や過去の炎症(精巣上体炎)などが原因となり、精子の通り道(精巣上体、精管、射精管など)が閉塞しているため、精液中に精子が出てこられない状態(閉塞性無精子症)となっている障害のことをいいます。

・加齢による影響
加齢による影響で、妊娠させる力(妊孕性)が低下するものです。
男性の場合には、女性と比較して緩やかではありますが、30代後半以降精子の質が低下していきます。

3 不妊を理由に離婚できるか?

配偶者と話し合い離婚について合意できる場合や、調停手続での話し合いの中で離婚について合意できる場合には、不妊を理由に離婚することが可能です。

他方で、離婚調停手続で離婚することについて配偶者が同意せず、合意することができない場合には、裁判離婚ができるか(離婚訴訟で離婚を認める判決を得られるか)を検討する必要があります。
結論からいいますと、配偶者が離婚を拒否する場合には、不妊であることのみを理由として離婚することはできません。

法律に離婚原因としてはっきり書かれているのは、不貞行為があったとき、悪意で遺棄されたとき、生死が3年以上明らかでないとき、精神病にかかり回復の見込みがないとき、というものです。

そのため、不妊がきっかけで配偶者が不貞行為をしたような場合には、これを理由として離婚することができます。

そして、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」も離婚原因として書かれていますので、不妊がきっかけで、以下のような夫婦関係となったような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」といえるため、裁判離婚をすることができる可能性があるといえるでしょう。

・別居し、その期間が長期間となっている

妊活をしたものの、不妊の状態が続き、夫婦仲が悪化してしまうと、同居して生活していくのが嫌になり、別居するケースもあります。
具体的な事案の内容によってどの程度の別居期間が必要かは異なってきますが、別居期間が長期間と認められるような場合には、夫婦関係が破綻しているものとして、裁判離婚が認められるでしょう。

●別居が続いていることによる離婚

・暴力を振るわれた・ひどいモラハラ被害を受けた

不妊の状態が続き、夫婦仲が悪くなってくると、喧嘩の頻度も増えてしまうケースが多いです。
どの夫婦でも起こり得る程度の夫婦喧嘩であれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとはいえません。
もっとも、喧嘩の際に、配偶者から暴力(DV)や、ひどい暴言(モラハラ)を受けたような場合には、配偶者が夫婦としての信頼関係を破壊する行動をしたものとして、裁判離婚が認められる可能性があります。

●DV・暴力の被害による離婚について
●モラハラの被害による離婚について

・セックスレスになった

妊活をしていても、不妊の状態が継続すると、セックスレスになってしまう夫婦もいます。
もっとも、性交渉というのは、夫婦間において重要な要素であると考えられており、正当な理由なく性行為を拒否する状態が長期間続いている場合には、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、裁判離婚が認められる可能性があります。

●セックスレスによる離婚

4 不妊を理由に慰謝料を請求できるか?

慰謝料を請求することができるのは、相手方の不法行為(違法性のある加害行為)によって精神的苦痛を受けたと認められる場合に限定されます。
不妊そのものは、不法行為とはいえませんので、不妊ということのみを理由とする慰謝料請求が認められるのは難しいものといわざるを得ません。
これは、配偶者に不妊の原因があった場合や、妊活に非協力的だった場合も同様です。

もっとも、不妊がきっかけで以下のような事情が認められる場合には、慰謝料請求が認められる可能性があるといえるでしょう。

・配偶者が不貞行為を行った
・配偶者から暴力を振るわれた
・配偶者が正当な理由なく性交渉を拒否し続けた

また、配偶者が不妊であることを隠したまま結婚した場合には、慰謝料請求が可能であると考えられます。

5 弁護士にご相談ください

不妊を理由として離婚を考えるというのは、非常にデリケートな問題であり、なかなか友人や両親にも相談しづらいものであるため、1人で深く悩んでしまう傾向にあります。
不妊を理由とする離婚についてお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。