当事務所では、離婚に関連するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
近年では、モラハラ(モラルハラスメント)の被害に遭われた方からのご相談・ご依頼案件が増えています。
今回のコラムでは、モラハラと離婚の問題について、ご説明させていただきます。
1 モラハラとは?
モラハラ(モラルハラスメント)とは、精神的暴力・精神的虐待のことです。
身体的な暴力を伴わない、言葉や行動・態度による精神的いじめを意味します。
【モラハラの具体例】
□人格を否定するような言葉で貶める。例えば、「最低」、「馬鹿」、「生きる価値がない」などの言葉を浴びせる。
□些細なミスを責め立てる。例えば、「そんなこともできないのか!」と責めたり、長時間の説教をしたりする。
□家計簿をつけさせ、支払項目を細かくチェックする。例えば、常識的には問題がないと思われる支出についても、「誰の金だと思っているんだ!」、「無駄遣いをするな!」などと文句をつける。
□風邪をひいて寝込んでいるのに、家事や食事の準備をするように要求する。例えば、「どうして飯の用意がないんだ!」、「大した風邪じゃないだろう!」などと怒鳴る。
□友達との飲み会や同窓会などのイベントへの参加を阻止しようとする。例えば、「家事を放棄するのか!」、「飯はどうするんだ!」などと怒鳴る。
□些細な行動について許可を取るように要求したり、行動を制限しようとしたりする。
□会話の途中で急に不機嫌になったり、大きな声で怒鳴ったり、理由もなく無視をしたりする。また、物を叩いたり壊したりして威嚇する。
2 モラハラで離婚できるか?
相手方が離婚に同意するのであれば、モラハラの問題いかんにかかわらず、離婚をすることができます。
しかし、相手方が離婚に同意しない場合には、民法に定められた法律上の離婚原因に該当することが必要です。
モラハラの場合には、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかが問題となります。
この点、モラハラが「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するためには、相当ひどいモラハラであることが必要であり、また、それを証拠によって証明しなければならないという問題があります。
一方で、まずは別居に踏み切ったうえで、離婚の手続を進めていくことが有効となるケースが多いです。
というのは、長期間別居していれば、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当し、法律上の離婚原因があると認められるようになるためです(なお、どの程度の別居期間が必要となるかは、個々の事案の内容によって異なります)。
そして、別居状態となることにより、離婚に向けた話し合いや調停がスムーズに進められる状況となることも少なくありません。
このように、別居に踏み切ることにより、いつかは必ず離婚できるという状況を作れますし、モラハラを受けることなく安心して生活できるようになりますので、まずは別居に向けた準備に取り掛かるのがよいでしょう。
3 モラハラで慰謝料を請求できるか?
相手方が素直にモラハラの事実を認め、慰謝料を支払ってくれば何の問題もありません。
しかし、モラハラの加害者が自ら非を認め、慰謝料を支払ってくることは、ほとんどないでしょう。
そうなると、調停や訴訟(裁判)において、モラハラの事実があったことを証拠により証明する必要があります。
モラハラに該当する言動を証拠により証明し、裁判官が相当ひどい言動であると認定すれば、慰謝料の請求が認められるでしょう。
しかし、実際には、モラハラの事実を裏付ける有力な証拠が確保できないというケースも少なくありません。
モラハラの証拠が乏しければ、慰謝料の請求を通すのは容易ではありません。
慰謝料を支払わせることには強くこだわらず、離婚の成立を優先すべきケースも多いのが実情です。
4 モラハラの証拠
モラハラの証拠となり得るものとしては、次のようなものが挙げられます。
□モラハラの言動を録音した音声データ
□LINEやメールなどの記録
□モラハラを裏付ける物的証拠(例えば、壁やドア、物に当たって壊した時の写真など)
□相談窓口や警察への相談記録
□うつ病などの精神疾患にかかっていることの診断書
□モラハラに関する記載のある日記帳やメモ
□当事者や目撃者の証言
上記のうち、モラハラの音声データ、LINE・メールなどの記録、物的証拠(壁やドア、物を壊した時の写真など)は、内容いかんにより有力な証拠となり得ます。
しかし、相談窓口や警察への相談記録や精神疾患の診断書は、相談をした事実や精神疾患にかかった事実を裏付けることはできますが、モラハラの存在そのものを裏付けるものではないため、証拠価値は高くありません。
また、日記帳やメモはご自身で自由に作成できるものであり、当事者や身内の証言の信用性は一般的に厳しく判断される傾向があるため、有力な証拠とは言えないのが実情です。
5 別居をする際のポイント
モラハラの被害に遭っている場合、上記のとおり、まずは別居に踏み切ることが離婚を進めるための有効な選択肢となります。
別居先としては、新しく賃貸アパートなどを借りること、親御様やご親族の家に身を寄せることなどが考えられます。
別居時期は、別居先に入居可能となる時期や、別居の準備にかかる時間などを考慮して決めることになるでしょう。
別居後の生計を確保することも大切です。
現在、仕事をしていない場合には、求職活動を行う必要があることが多いでしょう。
また、別居後、配偶者に対して婚姻費用(離婚成立までの生活費)を請求することも考えられます。
婚姻費用が任意に支払われない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
別居に向けた準備としては、持ち出す物品の選別、配偶者の財産・収入の調査、モラハラの証拠収集を可能な限りやっておくとよいでしょう。
子どもを連れて別居をする場合には、転園・転校の手続、子どもの健康保険の切り替え、児童手当の振込先の変更など、様々な対応事項があります。
その他、別居する当日の対応(置手紙をして出ていくなど)、別居後の住所を配偶者に教えるのか、別居後に配偶者から連絡があった場合にどのように対応するのか、実家や子どもへの連絡・接触が想定される場合にどのように対応するのかなど、事前に決めておくべきことも数多くあります。
弁護士を立てて対応することも考えられるでしょう。
6 離婚の手続を進める際のポイント
相手方が離婚に同意すれば、モラハラの事実いかんにかかわらず、離婚をすることができます。
しかし、モラハラの加害者は、離婚を拒否してくることが少なくありません。
相手方が離婚を拒否した場合には、上記のとおり、別居をすることも有力な選択肢となります。
相手方と別居をすることで、モラハラの被害から避難することができますし、離婚に向けた話し合いがスムーズに進められるようになることも多いです。
そして、上記のとおり、別居に先立って、できる限りモラハラの証拠を確保しておくことも大切です。
例えば、相手方が見下したような言動をしたり、怒鳴って暴言を吐いたり、延々と説教をしてきたりする様子を、ICレコーダーなどで録音しておくことなどが考えられます。
また、相手方と直接話し合いをすることに負担を感じていらっしゃる場合には、弁護士へのご依頼を検討されるとよいでしょう。
協議(話し合い)で離婚の合意をするのが難しければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、調停委員に対し、モラハラの被害について、証拠を提出しながら具体的に分かりやすく説明することが大切です。
調停委員に対してモラハラの事実をしっかりと伝えることができれば、離婚の合意を成立させられる可能性が高まります。
もし調停でも離婚の合意に至らない場合には、訴訟(裁判)を提起して離婚の成立を目指すこととなります。
離婚訴訟では、モラハラの事実を証拠によって証明し、モラハラの被害が「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)に該当することが必要とされます。
相当ひどい言動が継続的かつ頻繁に行われていることを証明しなければならず、1週間に1回ひと言述べる程度の暴言であれば、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」には該当しないとされる可能性が高いです。
そのため、必要とされる立証のハードルは、相当高いと考えてよいでしょう。
なお、モラハラが原因で別居に至り、別居期間が相当長期にわたる場合には、長期間の別居の事実をもって「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当すると判断される可能性が高くなります。
これは、モラハラの事実を証明することが難しくても、別居をすればいつかは必ず離婚できるということを意味します。
相手方が「いつかは離婚となってしまうのであれば、夫婦関係の継続は諦めよう」と観念するケースも多いため、別居するという選択肢は早い段階で検討することが推奨されます。
モラハラの証拠が乏しくても、あきらめる必要はありません。
7 弁護士に相談・依頼するタイミング
モラハラの加害者と直接やり取りをすることは、精神的な負担が大きいことでしょう。
弁護士に相談・依頼し、サポートを受けることをお勧めいたします。
そして、弁護士に相談・依頼いただくのであれば、別居前のタイミングがよいでしょう。
別居を検討する場合には、別居前から、別居に向けた段取りを考えていかなければなりません。
別居の際に持ち出す物品の選別、配偶者の財産・収入関係の調査、証拠の収集など、様々な疑問点が出てくることでしょう。
弁護士に早期に依頼することにより、そのような疑問点を都度弁護士に相談して解決しながら、別居を進めることができます。
当事務所では、これまでに、モラハラの被害による離婚事案を多数解決して参りました。
配偶者からのモラハラにお悩みの方は、ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。
●モラハラ被害による離婚で弁護士に相談・依頼すべき理由とタイミング
(弁護士・木村哲也)