アルコール依存とは、アルコールを長期間繰り返し多量に摂取(飲酒)した結果、精神的機能や身体的機能が害されている状態をいいます。
WHOの国際疾患分類では、アルコール依存は、精神および行動の障害の中に分類され、単なる個人の性格や意思の問題ではなく精神疾患として考えられています。
つまり、長期間繰り返し多量に飲酒すれば、老若男女を問わず、誰でもアルコール依存になる可能性があるといえます。

アルコール依存の症状には、精神依存と身体依存があります。
精神依存は、飲酒したいという強烈な欲求がわきおこる、飲酒のコントロールがきかない、飲酒やそれからの回復に大部分の時間を消費する、問題が悪化していても飲酒を続ける、などが挙げられます。
精神依存の特徴を一言で言うならば、飲酒をすることがその人にとって何よりも最優先の行動となってしまう、ということになります。
また、身体依存としては、アルコールが体から薄れてくると手指の震えや発汗などの禁断症状が出る、以前と比べて酔うために必要な飲酒量が増える、などが挙げられます。

このようなアルコール依存の症状により、健康を害してしまう、仕事を辞めてしまう、家族へ暴力を振るう、暴言を吐く、子どもへ悪影響を及ぼす、などが発生し、家族生活・夫婦生活に大きな支障が生じてしまいます。
そして、その結果として、家族関係・夫婦関係が悪化し、離婚を決意する方も少なくありません。

そこで、このページでは、
1 配偶者のアルコール依存を理由に離婚できるか?
2 配偶者のアルコール依存による離婚の場合に慰謝料請求できるか?
3 アルコール依存の配偶者と離婚するために確保すべき証拠
4 アルコール依存の配偶者との離婚を進める方法
ということについてお話しさせていただきます。

1 配偶者のアルコール依存を理由に離婚できるか?

アルコール依存が原因で家族生活・夫婦生活に大きな支障が生じてしまっている場合、選択肢として離婚を考えることは当然ありえることです。
そこで、はじめに、配偶者のアルコール依存を理由に離婚できるか?について解説します。

まず、夫婦がお互いに離婚に合意すれば、離婚をすることが可能です。
つまり、アルコール依存の配偶者が離婚に同意すれば、すぐにでも離婚をすることが可能です。

他方で、アルコール依存の配偶者が離婚を拒否している場合や離婚について話し合うことすら拒否している場合には、最終的には離婚訴訟で家庭裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
アルコール依存は否認の病と言われており、自分がアルコール依存になっていると認めたがらない傾向が見られます(お酒の問題はないと思っている、いつでも止められると思っている、お酒の飲み方に問題があっても他には何も問題ないと思っているなど)。
そのため、アルコール依存の配偶者が離婚を拒否することや、離婚についての話し合いに応じない可能性は十分に考えられます。

そして、離婚訴訟で家庭裁判所に離婚を認めてもらうためには、民法770条1項に定められている、以下の離婚原因があることが必要となります(法律上の離婚原因)。
①不貞行為。
②悪意の遺棄(正当な理由なく働かない、生活費を渡さない、同居を拒否するなど)。
③3年以上の生死不明。
④回復の見込みがない強度の精神病。
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(長期間の別居、暴力(DV)、犯罪による長期懲役などにより、結婚生活・夫婦関係が破綻した場合)。

「悪意の遺棄」について

「悪意の遺棄」とは、夫婦の相互扶助義務(同居義務、協力義務、扶養義務)に著しく違反している場合に当てはまります。
毎日飲酒して家事や育児に協力せず仕事も辞めてしまった、飲酒のために給与を毎月使い果たしてしまって生活費を支払わない、などの協力義務違反・扶養義務違反が著しいケースでは、「悪意の遺棄」が認められる傾向にあります。
裁判例でも、「被告は嫉妬深くて酒癖が悪く、酒を飲んでは暴れることを繰り返していたが、・・・原告が暴力を振るうなら出て行って欲しいと訴えたところ自宅に戻らなくなり、生活費を全く入れなくなった。そのため、原告はパートに出て収入を得てはいるものの、生活保護によって原告及び子供らの生活を支えることを余儀なくされている。・・・の事実は民法770条1項2号(悪意の遺棄)の離婚原因に該当するというべきであるから、原告の本訴離婚請求には正当な理由がある。」として、離婚を認めたケースがあります。

「回復の見込みがない強度の精神病」について

アルコール依存はWHOの国際疾患分類では精神疾患として考えられていますが、法律上の離婚原因における「精神病」は、統合失調症や躁うつ病などが想定されています。
また、法律上の離婚原因に当てはまる「強度の」精神病といえるためには、単に病気という程度を超えて、回復が困難といえる必要があります。
アルコール依存は回復できる可能性があるため、まずは治療に臨むことが求められるでしょう。

「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」について

配偶者がアルコール依存だということだけでは、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」と認められるのは難しいといえます。
他方で、飲酒が原因で、暴力を振るったり、日常的に暴言を吐いたり、物を壊したりしている場合には、その暴力、日常的な暴力的言動が、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に当てはまる可能性があります。
また、配偶者のアルコール依存を原因として夫婦関係が悪化して別居し、その別居がしばらく続いている場合には、夫婦関係はすでに破綻しているとして「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に当てはまる可能性があります。

2 配偶者のアルコール依存による離婚の場合に慰謝料請求できるか?

離婚の際に夫婦間で問題となる離婚慰謝料は、違法な方法で夫婦関係を破綻させるという不法行為によって、精神的な苦痛を負わせたことで発生します。
そして、配偶者のアルコール依存によって暴力を振るわれてケガをしたり、日常的な暴力的言動により精神的苦痛を受けたときには、この暴力や日常的な暴言・罵倒を不法行為として損害賠償請求をすることができます。

飲酒を原因として、アルコール依存の配偶者に対する慰謝料請求を認めた裁判例には、次のようなものがあります。
・数年間はほぼ毎晩飲酒し、顔を殴るなどした。
・仕事をしなくなり、朝から飲酒。飲酒の上、暴力を振るい、物を投げつける。育児に無関心で、子が病気の際も看病をしない。

このような裁判例からも分かるとおり、「配偶者がアルコール依存のために離婚した」というだけでは、アルコール依存自体は不法行為とまではいえないことから、慰謝料は認められないと考えられます。

3 アルコール依存の配偶者と離婚するために確保すべき証拠

先ほども述べたように、アルコール依存の配偶者が離婚を拒否している場合や話し合いに応じることすら拒否している場合には、最終的に離婚訴訟で家庭裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。
そして、離婚訴訟では、アルコール依存の事実を証明する客観的な証拠が必要となります。
そのため、アルコール依存の配偶者と離婚するためには、証拠を確保することが重要となり、配偶者がアルコール依存の事実を認めずに争う場合には、確かな証拠がないと離婚は難しくなってしまいます。
客観的な証拠が必要となることは、慰謝料を請求する場合も同様です。

そのためにも、まずは医師の診断を受けてもらうことが重要です。
あわせて、アルコール依存は精神障害保健福祉手帳の対象ともなっているため、手帳の交付を受けることが、重度のアルコール依存であることを証明するのに役立ちます。
もちろん、治療の過程で配偶者がアルコール依存から脱却できれば、離婚しないという選択肢もあるでしょう。

飲酒して暴力や暴言をくり返す場合も含めて、確保すべき証拠として次のものが考えられます。
・暴力を振るったときの録音・録画
・暴力を受けたときのケガの診断書
・暴力を受けたときのアザ・キズの写真
・暴言を吐いている時の録音・録画
・暴力・暴言の際に飲んでいたお酒の写真
・毎日飲酒していること、飲酒量が分かる写真
・朝や昼も飲酒していることが分かる写真
・具体的な出来事を日々記入した日記
・アルコール依存に関する診断書・カルテ(本人の同意がないと取得することはできないため、相手方が同意しない場合には、裁判所の手続きを使って開示を求めることになります)

4 アルコール依存の配偶者との離婚を進める方法

では、アルコール依存の配偶者と離婚する場合、どのように離婚手続きを進めることになるのでしょうか。

(1)離婚協議

離婚協議は、家庭裁判所の手続きを介さずに、夫婦間の話し合いだけで離婚をする方法です。
離婚の成立には、夫婦がお互いに離婚に合意していることが必要となりますが、離婚に合意さえしていれば、離婚の理由は問われません。
お互いに合意して離婚届を役場に提出して受理されると、離婚が成立します。

ここで、配偶者が飲酒を原因として暴力を振るっていたり、日常的に暴言を吐いたり、物を壊したりするなどの暴力的言動がある場合には、離婚を切り出すのは注意が必要です。
離婚を切り出したことによって、そのような暴力的言動がエスカレートするおそれがあります。
特にお子さんがいらっしゃる場合、お子さんへ直接の暴力がなかったとしても、お子さんの前で暴力や暴言があると、いわゆる「面前DV」により心に大きな傷を残してしまいます。
したがって、別居して物理的に距離をおいてから、離婚の話を切り出すという対応を検討する必要があります。

(2)離婚調停

離婚調停は、こちらも話し合いで離婚する方法ですが、家庭裁判所の手続きで、調停委員による仲介を得られる方法です。
離婚調停でも、離婚が成立するためには、夫婦がお互いに離婚に合意していることが必要となります。
そのため、相手方が離婚を拒否して場合には、離婚に向けた説得を粘り強く行っていくことが必要となります。
離婚協議の段階では頑なに離婚を拒否していたものの、第三者である調停委員を話し合いの仲介に入ることによって、態度が軟化し、離婚に応じてくるというケースもあります。

(3)離婚訴訟

離婚協議や離婚調停でも離婚の合意ができない場合には、最終的には離婚訴訟(裁判)を行うことになります。
離婚訴訟では、夫婦が離婚に合意することは必要なく、家庭裁判所が離婚を認めるかどうかを判断します。
そして、家庭裁判所が離婚を認めるのは、前述の法律上の離婚原因がある場合となりますし、その証明のために客観的な証拠が必要となります。

5 弁護士にご相談ください

以上では、配偶者のアルコール依存を理由に離婚できるか、配偶者のアルコール依存による離婚の場合に慰謝料請求できるか、アルコール依存の配偶者と離婚するために確保すべき証拠、アルコール依存の配偶者との離婚を進める方法、ということについてお話しさせていただきました。

アルコール依存の配偶者は、自分が依存症になっていると認めたがらない傾向が見られるため、離婚を拒否したり、離婚の話し合いに応じない可能性は十分に考えられます。
そのため、離婚訴訟まで進む可能性があることを見据えて、証拠の確保などの事前の対応が必要となります。
また、お子さんがいらっしゃる場合は特に、離婚を切り出す前に別居をすべきかどうかの判断も必要となるでしょう。
この点で、離婚問題に詳しい弁護士なら、アルコール依存の配偶者に対して、どのように離婚を進めていけばよいか、どのような証拠を確保していればよいかなどについて、各々の状況に応じて適切に判断してアドバイスをすることができます。
スムーズに離婚を成立させるためにも、アルコール依存の配偶者との離婚についてお悩みの方は、まずは経験豊富な当事務所の弁護士にご相談ください。