夫婦の一方が医師の場合、通常の世帯とは異なる特有の問題があります。
ここでは、一方が医師の場合に注意しなければならない主な問題についてご紹介いたします。
1 医師の場合も財産分与の割合は2分の1か?
その問題の1つは、財産分与です。
まず、財産分与の割合については、原則として2分の1とされます(これを「2分の1ルール」といいます)。
この2分の1ルールは、共働きの夫婦であっても、妻が専業主婦の場合であっても、同じく適用されます。
しかし、医師資格を取得した者自身の努力や能力が資産形成の主たる要因である場合には、2分の1ルールが適用されず、財産分与の割合が低くなることがあります。
裁判例として、夫が病院を経営する医師で、妻が資産の半額である約2億円の財産分与を請求したというケースにおいて、裁判所は、多額の資産形成は夫の医師ないし病院経営者としての手腕・能力によるところが大きいと判断して、2000万円の財産分与しか認めなかったというものがあります。
2 事業用の財産・医療法人名義の財産は財産分与の対象となるか?
開業医(自営)の場合、事業用の財産は個人の財産として取り扱われます。
したがって、事業用財産は財産分与の対象となります。
医療法人を経営している場合、医療法人名義の財産は個人の所有物ではなく、医療法人の所有物となります。
したがって、医療法人名義の財産は原則として財産分与の対象外です。
ただし、名義上は医療法人でも実質的には個人の財産である場合、個人の財産と医療法人の財産が混同している場合には、財産分与の対象となることがあります。
また、医療法人の出資金を拠出している場合には、その出資金も財産分与の対象となります。
なお、事業用の財産・医療法人名義の財産が財産分与の対象となる場合であっても、前述のとおり、「2分の1ルール」が修正される可能性があります。
3 医師が配偶者に病院を手伝わせていた場合、離婚を理由に解雇できるか?
次に、医師が配偶者を従業員として雇用している場合、離婚するにあたって、配偶者を解雇することができるのかという問題があります。
この点、夫婦の問題と雇用関係の問題は、法律上別個のものです。
そのため、例えば、配偶者が不倫・浮気を行っていた場合でも、そのことのみを理由に、配偶者を一方的に解雇することはできません。
ただ、配偶者の不倫・浮気相手が同じ医院内の従業員であった場合は、職場内の不倫・浮気を理由とする解雇を有効としている裁判例もあり、判断が分かれるところでしょう。
いずれにせよ、従業員として雇用している配偶者と離婚の話し合いをする際には、雇用関係の問題も一緒に解決する必要があることを念頭に置かないと、離婚の際に大きな障害になります。
4 医師の場合に子どもの親権争いに有利・不利はあるか?
未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする際には、夫婦のいずれかを親権者に指定しなければなりません。
夫婦の一方が医師の場合には、子どもを跡継ぎとしたいがために親権をめぐる争いになることがあります。
この点、親権の判断においては、これまでの子どもの監護状況や離婚後の監護環境が重視されます。
一方で、経済的に余裕があること自体は、親権の判断にそれほど影響しません。
収入の少ない側が親権者となっても、収入の多い側から養育費を受け取ることにより、カバーできると考えられるのが通常であるからです。
したがって、医師が高収入であるからといって、親権争いにおいて有利であるということはありません。
むしろ、これまでに夫婦のいずれが育児を中心に担ってきたか、という点の方が重要です。
また、子どもが意思表示できる年齢に達している場合には、子どもの意思も考慮されます。
5 医師の場合に養育費・婚姻費用をどのように計算するか?
養育費・婚姻費用の額は、夫婦間で合意できるのであれば、その額の支払とすれば問題ありません。
しかし、お互いの希望額に開きがあるような場合には、家庭裁判所で使用される算定表をもとに決めることが一般的です。
算定表では、夫婦双方の収入、子どもの人数・年齢により、養育費・婚姻費用の額が算出されます。
もっとも、算定表では、収入が2000万円(自営業者の場合は1567万円)までしか記載がなく、医師の年収が2000万円を超える場合には別途検討が必要となります。
この点、年収が上がるのに比例して必要となる養育費・婚姻費用も際限なく増えていくとは考えられないため、算定表の上限額である年収2000万円のゾーンの金額で算出する例が多く見られます。
一方で、養育費においては子どもが複数いる場合、婚姻費用においては年収が2000万円を大幅に超える場合には、夫婦の生活状況などの個別的事情を考慮しながら、適正額を検討する方法がとられることもあります。
6 どのような場合に慰謝料が発生するか?
DV(暴力)、モラハラ、不倫・浮気などの有責な行為がある場合には、慰謝料が発生します。
慰謝料とは、このような有責行為の被害を受けたことによる精神的苦痛を金銭で評価したものです。
慰謝料の額は、どのような有責行為により、どのような精神的苦痛を被ったかによって変わるものであり、加害者の職業や収入によって左右されるものではありません。
したがって、財産分与や養育費・婚姻費用とは異なり、夫婦の一方が医師であるからといって一概に高額であるということはできません。
7 まずは弁護士にご相談ください
医師の離婚には、上記のポイントをはじめ、医師に特有の多くの問題がついて回ります。
お困りのときはお気軽に当事務所にご相談ください。