1 はじめに

養育費・婚姻費用の権利者または義務者が、給与所得以外にも家賃収入や配当収入を得ている場合があります。

この場合、養育費・婚姻費用の算定において家賃収入や配当収入は考慮されるか?という点がよく問題となります。
特に、家賃収入や配当収入を生む不動産や株式・投資信託などが、相続・贈与により取得あるいは結婚前から保有していた特有財産に当たる場合、争いになりやすいです。

2 養育費・婚姻費用の算定において家賃収入や配当収入は考慮されるか?

家賃収入や配当収入を養育費・婚姻費用の算定に含めると考えるのが通常であり、そのように判断した裁判例が多く存在します。

【東京高等裁判所昭和42年5月23日決定】
「妻の特有財産の収入が原則として分担額決定の資料とすべきではないという理由または慣行はない」としたうえで、「特有財産である前記共同住宅の賃料収入を考慮し婚姻費用の分担額を決定することは当然のことである」と判断し、婚姻費用の算定において月額3万円の賃料収入を考慮しました。
【東京高等裁判所平成28年9月14日決定】
「平成26年に給与収入として2050万円を得たほか、不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし、いずれも経費を控除した後の所得金額)を得ており、平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる」としたうえで、婚姻費用の算定において不動産収入および賃料収入を考慮しました。

【大阪高等裁判所平成30年7月12日決定】
株式配当200万円、公的年金約128万円、不動産所得約20万円を婚姻費用の算定において考慮しました。「特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである」と判断しました。

【東京高等裁判所令和4年10月13日決定】
「令和3年分の確定申告書による事業所得は0円、減価償却費は約3万円、青色申告特別控除額は約63万円、配当収入は約18万円、給与収入は約3万円であったことが認められる」としたうえで、「事業所得0円に減価償却費約3万円及び青色申告特別控除額約63万円を加算した約66万円」を婚姻費用の算定において考慮しました。

一方で、不動産収入を婚姻費用の算定において考慮しないとした横浜家庭裁判所昭和57年2月15日審判およびその抗告審である東京高等裁判所昭和57年7月26日決定がありますが、不動産収入が多額の相続税等延滞分の納税にあてられており、主として給与収入によって生活していたという特殊な事案です。
基本的には、家賃収入や配当収入を養育費・婚姻費用の算定において除外することは非常に困難であると考えられます。

3 家賃収入や配当収入を養育費・婚姻費用の算定に含める場合の計算方法

家賃収入や配当収入を給与所得に換算したうえで、養育費・婚姻費用の「算定表」を適用します。

家賃収入や配当収入は、給与所得とは異なり、収入を得るための被服費・交通費・交際費などの職業費の支出がないため、家賃収入や配当収入の額面と給与所得の額面とを同列に見ることはできません。
そして、職業費の統計値は15%とされていることから、「1-0.15」すなわち0.85で割ることにより、給与所得に換算されます。

例えば、給与所得が600万円、家賃収入が120万円の場合、家賃収入200万円を0.85で割ると、141万1764円と換算されます。
そして、給与所得600万円と、家賃収入を給与所得に換算した141万1764円を足した741万1764円をもって、「算定表」にあてはめて養育費・婚姻費用の金額を求めることとなります。

算定表についてはこちらもご覧下さい

●養育費・婚姻費用の算定表について
●養育費の標準算定方式による計算
●婚姻費用の標準算定方式による計算
●自営業者の養育費・婚姻費用の計算
●年金受給者の養育費・婚姻費用の計算
●家賃収入や配当収入がある場合の養育費・婚姻費用の計算
●養育費・婚姻費用の算定表にないタイプの場合について
●義務者の年収が2000万円以上の場合の養育費・婚姻費用
●養育費・婚姻費用の特別費用について
●養育費・婚姻費用の支払始期(いつから支払義務が発生するか?)
●養育費の支払終期(何歳まで支払うのか?大学等に進学する場合は?就学を終えても無収入・低収入の場合は?)