離婚時の財産分与を検討する際に、夫婦の一方または双方に借金がある場合があります。
このページでは、財産分与における借金の取り扱いについて、ご説明させていただきます。
1 借金は財産分与の対象となるか?
借金には様々な性質のものがあります。
借金が財産分与の対象となるかどうかは、借金をした時期や性質によって変わってきます。
(1)財産分与の対象となる借金
結婚期間中にした夫婦生活のための借金は、財産分与の対象となります。
例えば、以下のような借金です。
□生活費のために利用したカードローン・キャッシング
□食料品など生活上の支払のために利用したクレジット
□自動車ローン
□住宅ローン
□子どもの学費・教育費
□未払いの家賃・水道光熱費・医療費 など
(2)財産分与の対象とならない借金
夫婦生活とは無関係の借金は、財産分与の対象となりません。
例えば、個人的な趣味の買い物のための借金や、個人的なギャンブル・遊興のための借金は、財産分与の対象外です。
独身時代にした借金も、財産分与の対象外です。
2 住宅ローンについて
財産分与の際に、住宅ローン返済中の家の取り扱いが問題となることがあります。
ローン残高が家の評価額を下回るアンダーローンの場合と、ローン残高が家の評価額を上回るオーバーローンの場合とがありますが、財産分与の対象となるのはアンダーローンの場合だけです。
例えば、家の評価額が2000万円であり、ローン残高が1000万円であれば、家の実質的価値は「2000万円-1000万円=1000万円」のアンダーローンです。
そして、この1000万円を基準に財産分与の計算を行うこととなります。
一方で、家の評価額が2000万円であり、ローン残高が3000万円であれば、マイナス1000万円のオーバーローンです。
オーバーローンの場合には、家と住宅ローンは財産分与の対象から除外されます。
そのため、家と住宅ローンを無視して財産分与の計算を行うこととなります。
もっとも、家と住宅ローンがなくなるわけではありませんので、その処理(夫婦どちらかが住むか?売却するか?住宅ローンの支払をどうするか?など)は夫婦間で話し合って決める必要があります。
財産分与と家・住宅ローンの問題について、詳しくは次の解説記事をご参照ください。
3 事業用の借金について
事業用の借金については、個人事業か法人化しているかにより、取り扱いが異なります。
個人事業の場合には、事業用財産も法律上は個人の財産であるため、財産分与の対象となります。
事業用の借金は、事業用の資産(プラスの財産)から事業用の借金(マイナスの財産)を差し引いた残りが財産分与の対象となります。
一方で、法人化している場合には、法人の財産は法律上個人の財産と区別されますので、財産分与の対象となりません。
ただし、小規模な同族企業であるなど、夫婦の財産と同視できる場合には、法人の資産(プラスの財産)から法人の借金(マイナスの財産)を差し引いた残りが財産分与の対象となる可能性があります。
また、会社・法人の株式・出資持分を保有している場合には、株式・出資持分は財産分与の対象となります。
なお、夫婦の一方の特別な才能・努力により高額の財産が形成された場合には、基本は2分の1ずつの財産分与の割合が修正されることもあります。
4 債務超過の場合の財産分与
前述のとおり、生活のための借金は、財産分与の対象となります。
しかし、これは「相手方が借金の半分を支払ってくれる」という意味ではありません。
融資をした債権者との関係では、あくまで借入をした名義人(債務者)が契約当事者となりますので、離婚後も借入をした名義人が返済を続けなければならないのが原則です。
「借金が財産分与の対象になる」というのは、例えば、夫に500万円の預貯金と200万円の借金(子どもの教育ローン)があり、妻に100万円の預貯金があったとします。
この場合、夫の200万円の借金を計算に加えると、夫の財産は差し引きで「500万円-200万円=300万円」となります。
そして、妻には100万円の預貯金がありますので、夫が妻へ100万円を支払うことにより、2分の1ずつの財産分与となります。
夫は、離婚後も200万円の借金の返済を続けることとなります。
「借金が財産分与の対象になる」というのは、このような意味なのです。
財産分与が認められるためには、プラスの財産(資産)とマイナスの財産(借金)が全体としてプラスになっている必要があります。
借金が資産を上回る債務超過の場合、マイナスの財産分与は法律上認められません。
例えば、夫婦の財産が100万円しかなく、夫に300万円の借金(カードローン)がある場合、夫から「200万円の債務超過の半分である100万円を、妻に負担してほしい」という要望が出されることがあります。
しかし、このような要望は法律上認められず、夫は離婚後も借金の支払を継続していく必要があります。
もっとも、これは家庭裁判所が財産分与について判断する場合の基準であり、夫婦間で任意に合意できるのであれば、妻が夫へ債務超過分の半分である100万円を渡す、などの解決方法をとることは可能です。
ただ、このような解決方法は夫婦間で合意ができなければ難しく、妻が債務超過分の折半に同意しなければ実現できません。
5 借金がある場合の財産分与の計算方法
借金がある場合の財産分与は、資産から負債を差し引きし、夫婦で2分の1ずつにする、という計算を行います。
具体的な計算方法について、事例をもとにご説明させていただきます。
【事例】
(夫名義の財産)
家:2000万円(評価額。結婚後にローンで購入)
預貯金:400万円(結婚後に貯蓄)
保険:300万円(解約返戻金相当額。結婚後に加入)
住宅ローン:▲4000万円(上記の家のローン)
カードローン:▲200万円(家族の生活費のため、結婚後に借入)
(妻名義の財産)
預貯金:100万円(結婚後に貯蓄)
自動車:100万円(評価額。ローンなし。親から贈与された)
まず、夫名義の「家:2000万円」と「住宅ローン:▲4000万円」はオーバーローンであるため、財産分与の計算からは除外します。
妻名義の「自動車:100万円」は親から贈与されたものであり、夫婦の協力関係のもとに形成された財産ではないため、特有財産として財産分与の対象とはならず、計算からは除外します。
次に、資産は夫名義の「預貯金:400万円」「保険:300万円」と妻名義の「預貯金:100万円」の合計800万円です。
負債は夫名義の「カードローン:▲200万円」であり、上記の800万円から差し引きすると、600万円となります。
そして、上記の600万円を夫婦で2分の1ずつにすると、妻と夫の取得額はそれぞれ300万円ずつとなります。
具体的な分配方法としては、夫名義のものは夫が取得し(カードローンも引き続き夫が支払う)、妻名義のものは妻が取得するものとしたうえで、夫が妻へ差額分の200万円を支払うことが考えられます。
あるいは、夫名義の「保険:300万円」を妻へ名義変更し、その他の夫名義のものは夫が取得し(カードローンも引き続き夫が支払う)、妻名義のものは妻が取得するものとしたうえで、妻が夫へ差額分の100万円を支払う、という分配方法もあり得るでしょう。
なお、財産分与の計算から除外された夫名義の「家:2000万円」と「住宅ローン:▲4000万円」の処理の問題が残りますので、夫婦間で話し合って決める必要があります。
夫が離婚後も住宅ローンを支払いながら、家に住み続けるなどの対応も考えられますし、夫婦の実情に応じて他の選択肢をとることもあり得るかもしれません。
また、妻が住宅ローンの連帯保証人になっている場合には、連帯保証人から抜けられるかという問題に直面することなども考えられます。
オーバーローンの住宅の処理については、次の解説記事でも触れておりますので、ご参照いただければと存じます。
6 弁護士にご相談ください
離婚時の財産分与についてお悩みの方は、まずは専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、これまでに、離婚と財産分与に関するご相談・ご依頼を数多くお受けして参りました。
解決実績も豊富にございますので、経験豊富な当事務所の弁護士にお気軽にご相談いただければと存じます。
財産分与についてはこちらもご覧下さい
●財産分与について
●財産分与の対象となる財産
●財産分与の割合
●財産分与の基準時
●財産分与と住宅(家)
●借金がある場合の財産分与