双極性障害(躁うつ病)は、国内だけでも数十万人の患者がいると言われています。
双極性障害の配偶者との離婚について、お悩みをお持ちの方も少なくないと思われます。
このページでは、双極性障害の配偶者との離婚における諸問題について、ご説明させていただきます。

1 双極性障害(躁うつ病)とは?

双極性障害(躁うつ病)とは、気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」とを繰り返す精神疾患のことです。
「うつ状態」だけが起こるうつ病とは異なる精神疾患です。
「激しい躁状態」とうつ状態のある双極Ⅰ型と、「軽い躁状態」とうつ状態のある双極Ⅱ型に分類されます。
双極性障害は、統合失調症とともに、二大精神疾患の一つとされています。

2 双極性障害(躁うつ病)の配偶者と離婚できるか?

配偶者が双極性障害(躁うつ病)にかかっている(あるいは、かかった)ことを理由とする離婚が認められるのか?という問題があります。

この点、離婚の手続は、まずは夫婦同士で離婚協議(離婚の話し合い)をし、協議がまとまらない場合には家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停でも解決しない場合には家庭裁判所に離婚訴訟を申し立てるという3段階の手続となっています。
そして、離婚協議や離婚調停の場合には、夫婦双方が離婚に合意するのであれば、理由を問わずに離婚を成立させることができます。
しかし、離婚訴訟で離婚を認める判決を得るためには、以下のような法律上の離婚原因(民法770条1項)に該当する必要があります。

【法律上の離婚原因】
①不貞行為(不倫・浮気)。
②悪意の遺棄(夫婦間の同居・協力・扶養義務に違反すること)。
③3年以上の生死不明。
④回復の見込みのない強度の精神病。
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由。

双極性障害の場合、上記④の「回復の見込みのない強度の精神病」に該当するのか?が問題となりますが、基本的には該当しないと判断されるでしょう。
双極性障害は、精神疾患の中でも治療法が確立されており、正しい治療によりコントロール可能であると考えられているため、回復の見込みがないとまでは言えないからです。
また、上記④の「回復の見込みのない強度の精神病」は、重度の統合失調症等が原因で、夫婦間の精神的交流が失われ、夫婦関係が形骸化している場合が想定されています。
このような観点からも、双極性障害であることだけを理由とする離婚の請求は、裁判所が認容しない可能性が高いと言えるでしょう。

ただし、双極性障害以外の離婚原因があれば、離婚が認められる可能性があります。
例えば、双極性障害の配偶者が不倫・浮気をした場合には、上記①の「不貞行為」に該当します。
また、双極性障害の配偶者からDV(配偶者暴力)の被害を受けている場合、モラハラ(モラルハラスメント)の被害を受けている場合、夫婦別居の状態が長期間にわたっている場合には、上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものと判断される可能性があるでしょう。
このような法律上の離婚原因に該当するのであれば、離婚が認められます。

3 双極性障害(躁うつ病)と子どもの親権

双極性障害(躁うつ病)にかかっていることが子どもの親権の判断に影響するのか?(不利になるのか?)という問題があります。
未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする場合、離婚の際に子どもの親権者を決める必要があります。
このとき、子どもの親権者の指定について、夫婦同士で合意できるのであれば、問題ありません。
しかし、夫婦同士で子どもの親権が争われる場合には、離婚調停や離婚訴訟で決めることとなります。

家庭裁判所が子どもの親権を判断する基準としては、①これまで主に育児を担ってきた方を優先する、②子どもがまだ幼い場合には母親を優先する、③中学生以上など一定以上の年齢に達している場合には子どもの意思を尊重する、④兄弟姉妹を離れ離れにしないようにする、などの原則があります。
また、親権者としての適格性の判断において、監護の意欲・能力、養育の環境、資産状況など、様々な要素が考慮されます。

このうち、双極性障害にかかっていることは、監護の意欲・能力に関連してくる可能性があります。
ただし、双極性障害にかかっているからといって、直ちに親権者として不適格という判断をされるわけではありません。
双極性障害にかかっているとしても、その症状や重症度は様々です。
症状および重症度がそれほど深刻なものではなく、監護の意欲・能力に問題がないと判断されれば、子どもの親権者となることも可能です。
これに対し、双極性障害が原因で最低限の育児を行うことも困難な状態である場合や、子どもに対する虐待・育児放棄などの事実がある場合には、子どもの親権者として不適格と判断される可能性が高いと言えるでしょう。

4 双極性障害(躁うつ病)と金銭面の離婚条件

双極性障害(躁うつ病)の配偶者との離婚においても、通常の離婚の場合と同様に金銭面の離婚条件(財産分与、慰謝料、養育費、婚姻費用など)が問題となることがあります。

慰謝料は、離婚の原因となる有責な行為があった場合に発生します。
配偶者が双極性障害にかかったこと自体は、配偶者に責任があるとは言えませんので、慰謝料は発生しません。
ただし、双極性障害の配偶者が不倫・浮気をした場合や、双極性障害の配偶者からDVやモラハラの被害に遭った場合には、配偶者の有責な行為がありますので、慰謝料を請求することが可能です。

また、ご自身が子どもの親権者となった場合、配偶者に対して離婚後の養育費の支払を請求できます。
そして、離婚が成立するまでの間は、収入の少ない方が多い方に対して、婚姻費用(生活費)の支払を請求できます。
しかし、双極性障害の症状や重症度のいかんにより、配偶者が仕事を続けることが難しくなったり、収入が減少したりすることも考えられます。
そのような場合には、養育費・婚姻費用の支払が困難になったり、受領可能な金額が減ったりする事態も想定されます。
上記のように、配偶者に対して慰謝料請求ができる場合であっても、支払を確保することが困難になることもあり得ます。
このように、金銭面の離婚条件を実現することが難しくなる場合があることには、ご注意ください。

5 弁護士にご相談ください

以上のように、双極性障害(躁うつ病)の配偶者との離婚には、複雑な問題があります。
双極性障害の配偶者との離婚についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずは専門家である弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
当事務所では、これまでに離婚に関するご相談・ご依頼を数多くお受けして参りました。
解決実績も豊富にございますので、ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。