配偶者が風俗を利用したことのみで、直ちに離婚や慰謝料請求が認められるわけではありません。
しかし、性交渉(セックス)・性交類似行為(手淫・口淫など射精を伴う行為)があった場合には、頻度・回数・態様等の事情により離婚や配偶者に対する慰謝料請求の原因となり得ます。
なお、風俗嬢と店舗外で(風俗店を通さずに)性交渉・性交類似行為を行った場合には、離婚の請求が認められる可能性が十分にあります。
風俗嬢に対する慰謝料請求は、認められないのが原則です。
しかし、店舗外で(風俗店を通さずに)性交渉・性交類似行為が行われた場合には、風俗嬢に対する慰謝料請求が認められる可能性があります。
デリバリーヘルス(デリヘル)などの風俗店の利用に関し、民法上の離婚原因で問題となり得るのは、配偶者に不貞な行為があったとき(民法770条1項1号)、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(民法770条1項5号)です。
この点、性交渉(セックス)・性交類似行為(手淫・口淫など射精を伴う行為)が行われた場合には、配偶者に不貞な行為があったとき(民法770条1項1号)に該当する可能性があります。
ただし、風俗の利用が数回程度に過ぎないような場合には、離婚の請求が認められない可能性が高いでしょう(1回ないし数回のデリヘル利用のみをもって離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できないと判示し、離婚請求を認めなかった裁判例として、横浜家庭裁判所平成31年3月27日判決)。
離婚の請求が認められるかどうかは、頻度・回数・態様など風俗の利用実態により、判断が分かれてくるでしょう。
風俗店を利用する頻度・回数が多く、利用実態が夫婦関係の継続を困難にさせるものと判断されれば、離婚の請求が認められることとなります。
また、風俗の利用頻度・回数などの事情のほかに、夫婦別居状態となっているなど他の要素が加わることで、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(民法770条1項5号)に該当するものとして、離婚の請求が認められることがあります。
なお、風俗嬢と店舗外で(風俗店を通さずに)性交渉・性交類似行為を行った場合には、単なる性的サービスの利用の範囲を超えるものですので、離婚の請求が認められる可能性が十分にあるでしょう。
そして、風俗を利用した配偶者に対する慰謝料請求は、上記のように、頻度・回数・態様などの利用実態により離婚が認められる場合には、慰謝料を請求することができる、ということになります。
以上のように、配偶者がデリバリーヘルス(デリヘル)などの風俗を利用したことによる離婚や慰謝料請求には、通常の不倫・浮気と異なるハードルがあります。
通常の不倫・浮気であれば、1回の性交渉でも離婚や慰謝料請求が認められるのが通常ですが、風俗店を利用した場合にはそうはならないのです。
これは、風俗店の利用が、通常の不倫・浮気とは異なり、特定の異性との恋愛感情や精神的な繋がりに基づいて行われるものではなく、あくまでも有償で性的サービスの提供を受けている、という点に特殊性があるためです。
そのため、通常の不倫・浮気とは異なり、1回の風俗店の利用で直ちに夫婦関係の破たんをきたし、離婚や慰謝料請求が認められる、とはならないのです。
一方で、風俗嬢と店舗外で(風俗店を通さずに)関係を持った場合には、単なる性的サービスの利用にとどまらず、たとえ対価の支払があったとしても、通常の不倫・浮気に類似する態様となるため、離婚や慰謝料の請求が認められやすくなるのです。
なお、風俗嬢に対して慰謝料を請求できるかという問題もあります。
この点、風俗嬢は、基本的に業務として性的サービスを提供しているものであり、風俗嬢の側に慰謝料請求の原因となる不法行為があったと評価することは困難なのが原則です。
したがって、原則として、風俗嬢に対して慰謝料を請求することはできません。
ただし、配偶者と風俗嬢が店舗外で(風俗店を通さずに)性交渉・性交類似行為を行った場合には、風俗嬢に対する慰謝料請求が認められる余地があります(裁判例には、慰謝料請求を認めるもの、否定するものの両方があります)。