昨今、DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVで離婚や慰謝料を請求される例が散見されます。
このページでは、「DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVへの対応方法と予防策」について、解説させていただきます。
1 DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVとは
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者に対する暴力のことを意味します。
DVの被害者は手厚く保護されるべきである一方で、妻が有利な条件で離婚をするために夫のDVを偽装・でっち上げる例も存在します。
これがDV冤罪・偽装DV・でっち上げDVの問題です。
夫が離婚を拒否していたり、夫婦の希望する離婚の条件に開きがあったりすれば、妻としては早期に有利な条件で離婚を成立させることが困難になります。
しかし、夫が妻に対して暴力を振るっていたのであれば、法律上の離婚原因(民法770条1項5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」)に該当するものとして、離婚の要求が通りやすくなります。
また、夫からのDVの事実が存在するのであれば、妻は慰謝料を請求することができますし、夫が子どもに対して暴力を振るっていたり、夫が子どもの前で妻に対して暴力を振るっていたりすれば、子どもの親権の判断でも妻が有利・夫が不利となります。
このことが、DVの偽装・でっち上げが行われる動機・理由なのです。
なお、DVとは配偶者に対する暴力のことであり、夫の妻に対する暴力のみならず、妻の夫に対する暴力も含む概念です。
しかし、実際には、DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVは、妻がDV被害者のふりをして夫をDV加害者に仕立て上げる例がほとんどです。
2 DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVへの対応方法
妻からDVを偽装・でっち上げされた場合の夫の側の対応方法について、以下でご説明させていただきます。
①DVを冷静に否認する
感情的にならずに、冷静にDVの事実を否定しましょう。
感情的になって罵ったり、怒鳴ったり、暴言を吐いたりしてしまうと、録音を取られ、暴力的な人物の印象に仕立て上げられてしまうおそれがあります。
DVの事実があったことを証明する必要があるのは、DVの被害を受けたと主張する側です。
DVの疑いをかけられた者が、DVの事実の不存在を証明する必要があるというわけではありません。
DVを偽装・でっち上げされた場合には、むきになって反論するのではなく、冷静にDVの事実を否定するのが正しい対応です。
②離婚不受理申出をする
離婚を拒否する、あるいは、不利な条件での離婚を拒否するのであれば、本籍地の役所で離婚不受理申出をしましょう。
DVを偽装・でっち上げするような人であれば、ご自身の意思に反して離婚届を勝手に提出したり、離婚届を偽造したりするおそれもあります。
確かに、離婚届を勝手に提出されたり、離婚届を偽造されたりすれば、後々、裁判手続などで離婚を無効にしたり、電磁的公正証書原本不実記録罪・有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪で告訴したりすることもできるのですが、時間と手間がかかり、弁護士に依頼すれば費用もかかります。
事前に離婚不受理申出をしておけば、このような事態を予防することができます。
③虚偽の主張の内容を把握する
DVを偽装・でっち上げようとしている虚偽の主張の内容をよく聞きましょう。
虚偽の主張には、筋が通らないところ、矛盾するところがあることも多いものです。
客観的な事実に反する主張(例えば、ご自身が出張で家にいなかった日に暴力を振るわれたと主張しているなど)、内容が変遷している主張(例えば、以前に主張していた暴行の態様とは異なる態様を主張しているなど)、具体性・迫真性に欠ける主張(例えば、暴行の日時・場所・経緯・態様などが抽象的・曖昧な主張など)などは、信用性がないと反論することができます。
虚偽の主張の内容をしっかりと把握することは、効果的な反論を展開することにつながります。
④DVの偽装・でっち上げをする目的を把握する
DVを偽装・でっち上げる目的は、有利な条件で離婚をするためであることが多いです。
しかし、実際には、「不倫・浮気をしており、不倫・浮気相手と一緒になるために、DVを偽装して離婚に持っていく」、「好きな人ができてしまったから、DVをでっち上げて離婚を成立させる」など、裏の目的があることも少なくありません。
不倫・浮気をしている側がただ離婚を要求しても、通常は離婚の要求を通すことが困難であるため、DV被害を離婚の理由にしようとするのです。
これまでの妻の言動、別居に至る経緯、別居時の状況などを分析し、DVを偽装・でっち上げる裏の目的を検討してみるとよいでしょう。
そして、DVの偽装・でっち上げをする妻に不倫・浮気が疑われる場合には、探偵に依頼するなどして不倫・浮気の証拠をつかむことが有効です。
⑤不当な要求を拒否する
DVの偽装・でっち上げをされ、怪我の写真・診断書などの証拠が偽造されたとしても、不当な要求は拒否するようにしましょう。
離婚協議、離婚調停では、夫婦双方の合意がなければ、離婚を成立させることができませんので、納得できなければ離婚の要求を拒否することができます。
DVの加害者に仕立て上げられ、それなりの証拠があると攻撃されると、弱気になってしまう人もいますが、DVを偽装・でっち上げる目的は、有利な条件で離婚しようと企んでいるとか、不倫・浮気相手と一緒になるための方便であるなどが多く、離婚は人生における重要な問題ですから、諦めて言いなりになってしまってはいけません。
⑥DVの証拠の虚偽をあばく
離婚協議、離婚調停では、夫婦双方の合意がなければ、離婚は成立しません。
しかし、離婚訴訟では、合意がなくても、DVの事実が証明されれば、法律上の離婚原因(民法770条1項5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」)に該当するものとして、離婚の要求が通ってしまうのが通常です。
また、DVの事実が証明されれば、慰謝料を請求する根拠にもなってしまいます。
そのため、証拠をでっち上げてDVを偽装してくるのであれば、DVの証拠の虚偽をあばいていかなければなりません。
でっち上げた証拠には、不自然なところ、矛盾するところ、主張内容と矛盾するところが存在することも多く、虚偽の証拠・主張を突き崩せることも多々あります。
3 DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVの証拠の虚偽をあばく方法
DVの証拠の虚偽をあばく方法の例としては、以下のようなものがあります。
①怪我の理由
別の理由で怪我をしたのを利用し、その怪我の写真を撮ったり、診断書を入手したりして、虚偽のDVの証拠とする例があります。
後述するカルテの開示により、診察時に話した本当の怪我の理由が書かれていれば、DVの偽装・でっち上げをあばけることになります。
また、目撃者の証言、同居の家族の証言、当時のメール・LINE、当時の日記・SNSなどの証拠から、別の理由で負った怪我であることがあばけることもあります。
②カルテの開示
DVの偽装・でっち上げをめぐる裁判で診断書が証拠提出された場合には、必ずカルテの開示を求めるようにします。
診断書には、傷病名と症状が手短に記載されているのみのことが多いです。
これに対し、カルテなどの医療記録には、診察時の発言、詳細な症状、受傷状況の説明などが記録されていることが多いです。
このようなカルテの記載内容から、虚偽のDVをあばけることもあります。
なお、カルテの開示は、裁判手続では文書送付嘱託(裁判所を通じて医療機関に対してカルテの開示を求める手続)を利用するのが通常です。
一方で、離婚協議の段階であれば、交渉によりカルテの開示を求めることとなりますが、妻の側がカルテの開示を拒否する場合には、離婚・慰謝料の要求を拒否する対応をとるとよいでしょう。
③前後の夫婦間のやりとり
虚偽のDVの前後における夫婦間のやり取りは、虚偽をあばく証拠となることもあります。
例えば、DVを受けたと主張されている日の翌日に、夫婦関係が円満・良好であることを示すような夫婦間のLINEのやり取りがあるとします。
このような夫婦間のやり取りがありながら、その前日にDVがあったというのは不自然であると考えられるのが通常でしょう。
4 DVを偽装・でっち上げされないための予防策
以下では、DVを偽装・でっち上げされないための予防策についてご説明いたします。
①日頃の言動に注意する
日ごろからDV気質を疑われる言動は避けるようにしましょう。
怒鳴りつける、暴言を浴びせる、LINE・メールで高圧的な発言をする、しつこく電話をかけるなどの事実があれば、LINE・メールは記録として残りますし、会話を録音に取られたり、毎日の日記に書かれたりすれば、DV夫と印象付けるための材料として利用されてしまいます。
②弁護士に相談する
DVを偽装・でっち上げられる兆候を感じた場合には、お早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
DVを偽装・でっち上げる妻は、弁護士の助言・指導のもとに、虚偽のDVの主張を裏付けるための証拠の作出に動くなど、計画的に準備を進めていることが多いものです。
虚偽のDV加害者に仕立て上げられ、離婚、親権、慰謝料まで支払わされるのは、最悪の事態です。
DVを偽装・でっち上げられるおそれがある場合には、早期に弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
③離婚協議を進める
DVを偽装・でっち上げられそうな状況になったとしても、離婚は仕方がないと考えているのであれば、そのまま離婚協議を進めることで、適正な条件で離婚を成立させられるかもしれません。
DVの偽装・でっち上げの目的が離婚であり、慰謝料の獲得にそれほどこだわってこないのであれば、話し合いでスムーズに解決できることもあります。
5 DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVに対して名誉棄損で訴えることはできるか?
「DVを偽装・でっち上げることは、名誉棄損ではないか?」というご質問をいただくことがあります。
この点、名誉棄損行為が「公然と」行われた場合には、刑事では名誉棄損罪(刑法230条により、3年以上の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金)、民事では不法行為(民法709条および710条により、損害賠償責任)が成立することがあります。
ここで、「公然と」というのは、不特定または多数の第三者に対し、名誉棄損行為を行うことを意味します。
そのため、夫婦間でDVをでっち上げられたり、虚偽のDVで離婚・慰謝料を請求されたりしただけでは、上記の民事・刑事の責任問題とはなりません。
あくまで、インターネット上で公開したり、SNS・匿名掲示板に投稿したりしたときに、名誉棄損に該当する可能性が出てくるものです。
6 弁護士にご相談ください
以上のとおり、DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVへの対応方法と予防策についてご説明させていただきました。
当事務所では、離婚に関するご相談・ご依頼を多数お受けしており、解決実績も豊富にございます。
DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVの事案の対応経験もございますので、お悩みの方はお気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。
(弁護士・木村哲也)