離婚前に別居する際には、別居後の生活や、離婚の条件(親権、慰謝料、財産分与など)を見据えて、いくつか注意しなければならない点があります。
1 別居後の生活に必要なお金を準備する
別居となると、その後は、経済的に配偶者に頼った生活を送ることは難しくなります。
そのため、住居や仕事の確保に加えて、別居後の生活に必要なお金を準備しておかなければなりません。
ここで、自分名義の預金があれば、それを別居後の当面の生活費にあてられます。
一方で、自分名義の預金がない場合には、配偶者名義の預金を持ち出してよいのかが問題となります。
夫婦で貯めた預金であるとしても、配偶者名義の預金を、配偶者に無断で全て持ち出してしまうことは、トラブルを引き起こし、その後の離婚の話し合いに悪影響を及ぼしてしまうことがあります。
とはいえ、全くの無一文のままで家を出るというわけにもいかないでしょう。
そこで、例えば、当面の生活に必要な額に限って持ち出して、「生活に必要なので持ち出す」ことを書いた置手紙を残しておくだけでも、トラブルを回避することには役立ちます。
また、当面の生活に必要な相当額であれば、配偶者に無断であったとしても、持ち出したことについて、法的に問題とされる可能性は低いでしょう。
いずれにしても、別居後の生活のために配偶者名義の預金から一定額を持ち出す場合には、いくら持ち出すのかも含めて、弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めします。
また、別居中でも、配偶者に対して、生活費や子どもにかかる費用(婚姻費用)を請求することは可能です。
ただし、家庭裁判所の手続では、婚姻費用は原則として、請求した時点以降の分しか、認容されません。
そのため、別居と同時に、内容証明郵便による婚姻費用の請求または婚姻費用分担調停を申し立てておかないと、別居後に婚姻費用を支払ってもらえなかった場合に、未払分の婚姻費用をさかのぼって受け取れなくなるおそれがあります。
2 未成年の子どもの住む場所を決める
未成年の子どもがいる中で別居する場合、その子どもはどちらに住むのか、子どもも一緒に連れて別居するかどうかを検討しなければなりません。
子どもの親権が争いになった場合には、別居後の子どもを実際に監護養育していたのは誰か、という点も重要な判断要素になります。
そのため、子どもの親権を取得したいと考えている場合は、子どもを連れて別居することを検討する必要があります。
ここで、配偶者の同意なく子どもを連れて別居した場合で、それが違法な連れ去りであると評価されてしまうと、そのことが親権を判断する上で不利に働いてしまうことがあります。
もっとも、同居中に主に子どもを監護養育していた方が、そのまま監護養育を続けるために、子どもを連れて別居した場合には、配偶者の同意がなくても、違法とされることは原則としてありません。
子どもを連れて別居することについて少しでも不安のある方は、弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めします。
3 別居後の生活に必要な自分の物は全て持ち出す
配偶者に黙って別居をする場合は、持ち出すのは「自分の物」だけにとどめるのが無難です。
結婚してから夫婦で購入した(夫婦の共有財産となる)家具や家電については、財産分与の対象となりますので、配偶者に無断で持ち出してしまうと、後々トラブルになりかねません。
また、後で取りに行くのは難しいと覚悟して、別居する際には、自分の大事な物、必要な物は全て持って出るべきです。
別居後に自分の物を取りに行ったら、家への立ち入りを拒否されて取り出せないということは、よくあります。
さらには、「○○を返してほしかったら、○○の条件に応じろ」と、離婚の条件の交渉材料に使われてしまい、理不尽な譲歩を強いられる可能性もありえます。
4 証拠は確保しておく
配偶者の不貞行為を理由に離婚を考えている場合は、同居中に不貞行為の証拠収集を行っておくべきです。
別居後は、配偶者との日常的な関わりもなくなり、家に立ち入ること自体が難しくなるため、証拠収集(配偶者と不貞相手とのメール・LINEのやり取りの画面を写真に撮るなど)は困難となります。
また、別居してから相当期間経過した後に配偶者が不貞行為を行った証拠しかない場合、「別居前に不貞行為はない。不貞行為の時点では、すでに別居して婚姻関係は破綻していた。」と反論され、慰謝料を請求できなくなるか、減額される可能性があります。
したがって、不貞行為の証拠は同居中に収集し、別居の際に一緒に持って出る必要があります。
5 配偶者の財産調査は済ませておく
適正な財産分与の額を算定するためには、配偶者の財産状況を正確に把握しておく必要があります。
いざ財産分与の話し合いがはじまると、財産を渡したくないと考えて、財産を隠されてしまう可能性もあります。
そのような事態に備えて、配偶者の財産状況の調査は別居前に行っておく必要があります。
例えば、配偶者名義の通帳(履歴を含む)や保険証券のコピーを取っておくとよいでしょう。
離婚に向けての別居といっても、夫婦の置かれている状況は様々です。
そのため、自分の置かれている状況に応じて、別居前に準備すべき点や注意すべき点を検討する必要があります。
別居後の生活に困らないためにも、できる限り有利な離婚の条件を勝ち取るためにも、別居前に、離婚問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。